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里山再生と森林業の可能性:森林墓地(3) ナラの巨木の根元に眠る

レンツィア墓地森林内のナラの巨木。白マークは未契約樹であることを示している(写真提供:Andreas Bernasconi)

 ヨーロッパにおける埋葬森林の多くは少数の大企業によって経営されているが、地域コミュニティによって取り組まれている事例もある。森林埋葬サービスを提供しているスイス・レンツブルク市の地域森林企業レンツィアは、5つの地域コミュニティの共同設立企業である。地域の森林は数十年間以上にわたり、恒続林思想に基づき管理されてきており、大規模な伐採は行われてきていない。そして、永続的な森林であることとともに強調されているのが、巨木信仰ともいえるような考え方である。

 「永続的な森林に加えて、巨木が我々の心に近い。我々は多くの樹木を木材利用のために十分な林齢よりもずっと長く維持する。後続の世代もこれらの素晴らしい天然の記念物を享受できるようにするためである(1)」

 本地域では、伝統的に数多くの老齢のナラの樹が大切に保全されている。

 「特別な遺産は数多くの老齢のナラの樹が我々の森にあることである。代々のフォレスターがこれらの樹々の手入れを行ってきて、その高価な木材を少しずつ注意深く利用してきている。老齢のナラが昆虫や野鳥にとって非常に重要なことから、これらの木々はアールガウ州とレンツィア森林業サービスとの保全合意に基づいて保全されてきている(1)」

 日本・岩手県の知勝院の事例(昨年11月配信https://www.shinrinbunka.com/wgp/focus/30020.html)と異なり、ここでは立ち木の根元に埋葬する仕組みがとられている。前者は、整備した里山の空間に一定の間隔で埋葬箇所を設定し、その箇所に自分の好きな中低木の苗木を植えて目印にするという方法であった。里山環境のなかに眠ることができるが、気に入った大木の根元に眠るという仕組みではない。このため、埋葬箇所は林内に自由に、面積に応じて設定することができる。

 一方、レンツィア森林業サービスの森林埋葬では立ち木に執着する。1本の立ち木に1者しか契約できないことから、立ち木の数以上に契約は増やせない。埋葬箇所は樹木の間隔以上に離れており、林内の装飾等は禁止されているために一目見て通常の森林と変わりない。よく整備された里山の明るい環境の一角に眠る希望を叶えるのが前者であり、手つかずの原生林のような環境に佇む巨木ナラの根元に眠る希望を叶えるのが後者である。この文化的および経営モデルとしての違いは非常に興味深い。

 レンツィアの場合、埋葬する樹木は現地を訪れて自分自身で選ぶことになる。1本の樹に1契約であり、ブルーの印が付いている樹はすでに誰かが選んでいるものだ。白い印の樹はまだ誰も選んでいないものである。契約者の親戚などは、後日同じ樹に半額で埋葬ができる。樹は契約から最低30年間は保護される。しかし、もちろん自然物である樹は病気になったり枯れたりすることもある。その場合は伐採したり、別の樹を植えたりすることもある。

埋葬樹(未契約)とその周辺の環境(出典:レンツィア森林業サービス ウェブサイト)

 埋葬のやり方としては、レンツィア森林業サービスが対象樹の根元を掘って、親戚や指定された人が遺灰を持ち込む。森林埋葬の契約期間は30年間であり、担当のフォレスターが顧客との相談に応じて骨壺を埋める樹の準備などを行うとともに、該当地域の森林管理を担っている。さらに、自然保護のため埋葬森林は自然に近い状態に保つため、静粛性と訪問者の安心を提供するため、一般的にモータービークルは禁止されている。

ブルーの印は契約済み樹であることを示している(写真提供:Andreas Bernasconi)

 興味深いことに、費用は選んだ樹の胸の高さの外周によって決められており、巨木ほど高額になっている。125cm以下が4000スイスフラン(約81万円)、190cmが5,300スイスフラン(107万円)、250cmが6,500スイスフラン(132万円(税抜き)である。これらの費用は通常の墓地にかかる費用よりも安く、地域住民には10~20%の割引がある。しかし、森林埋葬が好まれるより重要な理由は、自然や自然に対する霊的な価値に近いこと、自然を訪問できる場所であること、伝統的な墓地よりもずっと長期間の契約が可能なことであるという(2)。
 「多くの人々が、死後墓地の外の墓石のない場所に眠ることを希望している。多くのナラの樹が自然状態に保全されているレンツィア地域の森林はこのために理想的(1)」」なのである

 (上智大学大学院地球環境学研究科客員教授 柴田晋吾)

[参考文献]

1)Lenzia Celestial Oaks/Heavenly Oaks website (https://www.himmlischeeichen.ch/ueber-uns/wer-sind-wir/)

2)Andreas Bernasconi. 2025. Personal Communication

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