里山再生と森林業の一つの姿:森林墓地(1)
森林の新たなビジネスとしてヨーロッパ地域で近年大きく伸びてきているものの一つに森林墓地がある。我が国でも近年、樹木葬と称している墓地が多く出てきているが、それらは「墓石の代わりに樹木を使うというだけで、既存の墓地区画に木を閉じ込めた『樹木葬』や真ん中に桜を植えた合葬墓を『樹木葬の一種』としてPRしているところがほとんど1」」だという。このたび日本で初めて樹木葬を実施した樹木葬の草分けとされる岩手県一関市の知勝院を訪ねる機会があった。その取り組みは単なる樹木葬を超えたユニークなものであり、我が国で可能な里山再生による森林業の一つの姿を示していると考える。本稿ではその一端しか紹介できないが、ヨーロッパ地域の状況とも比較しつつ紹介したい。

写真1 第一墓地内の状況(2025.10.3撮影)
墓地は間伐と頻繁な草刈りを行った明るい状態の里山に、点々と墓標代わりにガマズミやヤマツツジなどの郷土樹種の低木を植えていく方式が取られており、林内には様々な野草が回復するように配慮されている(写真1)。墓標とする低木は生態的に適合する15種類ほどの樹種から利用者が自由に選ぶことができ、費用は永代使用料が50万円、年間維持費が8000円である。1999年に始まり、現在では利用者は日本全国2,800人にのぼるという。林内にはウッドチップが敷きつめられた歩道が整備され、林内を散策してお参りができる。あちらこちらでお供えの花も散見された。遠隔地に住む者にとって交通費はかかるがこれだけの費用できれいに管理された里山に墓地を持つことができるということで人気があるのであろう。
最大の特徴は、里山を再生して生物多様性を保全するという大きな目標の取り組みの一環として樹木葬を実施していることだ。一帯は2023年度に早々と国の「自然共生サイト」に認定され、住職の千坂げんぽう氏は久保川イーハトーブ自然再生協議会の顧問も務めている(写真2)。写真3は、隣接地の未整備の里山であり、写真4は間伐して整備した後の状況であり、その差は歴然としている。

写真2 久保川イーハトーブ自然再生研究所の代表理事を務める前住職の千坂げんぽう氏。

写真3 未整備の隣接地

写真4 整備済みの樹木葬の区画の一部
エリア内には放棄田や農業用ため池を再生したビオトープも各所に設けられ、アカショウビンやホタル類も見られる(写真5)。また、栗駒山を望める眺望の良い箇所の里山も整備して対象地としており(写真6)、放牧跡地の荒廃地も今後整備する予定にしている(写真7)。このような広大なエリアの整備のために、7人の常勤職員と1人の非常勤職員が雇用されており、地域資源を活用した自然と共生した持続可能な地域づくりに貢献してきている。

写真5 放棄田をビオトープとして整備した箇所

写真6 第二墓地から栗駒山を望む

写真7 廃牛舎と荒廃牧野(今後の整備予定地)
ちなみに、ヨーロッパのスイスやドイツの森林墓地では大径の主木を選んでそれを墓標代わりに使用するのが一般的であり、また、少数の大企業によって実施されているものが大部分であるが、地域自治体が共同で会社を設立して実施している事例もある。これについては次回に紹介することとしたい。
(上智大学客員教授、柴田晋吾)
[参考文献]
※1千坂げんぽう2019. 行政という暴力 巨大プロジェクト誘致にみる地方劣化の構図. 207p

