海の酸性化 もう一つのCO2問題

理科実験で「見える化」

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BTBを加えた液体。左から酸性(黄色)、中性(緑色)、アルカリ性(青色)=山本智之撮影

 

 

 科学の楽しさを実験で伝えたい━━。NPO法人「ガリレオ工房」の理事長を務める滝川洋二さんは、独自のアイデアをもとに、様々な実験を長年考案し続けてきた理科教育の研究者だ。数々の書籍やサイエンスショーなどで、広くその名を知られている。

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ガリレオ工房理事長の滝川洋二さん=本人提供

 

 

 ガリレオ工房が提案する実験では、100円ショップなどで安く手に入るような材料や、日常生活で使う品物がよく使われる。例えば、ペットボトルもそのひとつだ。

 水道の蛇口から出る水は透明なのに、お風呂に深く水を張ると薄い水色になる。なぜだろう?

 この現象は、科学的には「水は赤色の光を吸収する性質がある」ということなのだが、これもペットボトルを使った実験で確かめることができる。ガリレオ工房のメンバーが考案した「水の色は何色?」実験だ。

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 滝川さんに教わったとおり、500ミリリットル入りのペットボトルに半分だけ水を入れたものを6本以上(今回は10本)用意し、それを一列に並べた。ペットボトルの水は1本ずつだと透明だが、10本を重ねた状態で見ると、うっすらとした「水色」に見える。

 この実験では、いったい何が起きたのか。図解すると下記のようになる。

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 白い光は、光の三原色である「赤」「緑」「青」の光が合わさってできている。ところが、水には赤色を吸収し、ほかの色は通過させる性質があるため、何本ものペットボトルの水を通過するうちに、赤い光が吸収される。こうして残った「青」と「緑」を足し合わせると「水色」になる原理なのだ。

 さて、本題である。

 透明な気体である二酸化炭素(CO₂)が世界中の海に溶け込むことによる「海の酸性化」は、私たちが直接、目で見ることのできない現象だ。これをなんとか、実験によって可視化できないか━━。

 実は筆者も、実験を通じて子どもたちに海の酸性化の問題を知ってもらおうと、小学生向けの環境学習副読本『海とSDGsについて考えてみよう!』(2020年発行)の中で、ひとつの実験を紹介したことがある。それは次のような、いたって簡単なものだ。

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 ビーカーに入れた水道水に、液体のpHを調べる指示薬の「BTB」(bromothymol blue〈ブロモチモール・ブルー〉)を加える。中性の水道水だと「緑色」になるのだが、ここにストローを差し込み、ブクブクと息を吹き込むのである。

 すると、吐き出す息(呼気)に含まれるCO₂が水に溶け込むことで、pHの低下が起こる。その結果、「緑色(中性)」だった水の色が「黄色(酸性)」へと変化する。

 つまり、広大な海で起きている酸性化という現象を、小さなビーカーの中に再現しようという試みだ。

 実験をするためにわざわざCO₂を用意する必要がなく、人間が息を吐くだけでできる「手軽さ」が売りである。ただし、実際にいま起きている海の酸性化は、「弱アルカリ性」の海水のpHが「中性」に向けて傾きつつある現象なので、「酸性化といっても、海が酸っぱくなるわけではない」という補足説明は必須だろう。

 一方、滝川さんが考案した「海洋酸性化の実験」は、独自の工夫を凝らしており、すばらしい内容だ。まず、海水を模してつくったアルカリ性の水にBTBを加える。この水が入ったペットボトルにCO₂を入れ、シェーカーのようにシャカシャカと振るのだが、その際に「冷たい水」と「温かい水」という異なる二つの温度条件で実験するのがポイントだ。

 具体的には「空気と水」「CO₂と26℃の水」「CO₂と4℃の水」という3本のペットボトルを用意する。CO₂入りの2本は、ペットボトルを振るとぺちゃんこになる。これは、CO₂が水に溶けたということだ。また、アルカリ性を示す青色の水は黄色くなり、酸性になったことが分かる。

 そして、さらによく見ると、26℃の温かい水よりも、4℃の冷たい水のほうが、ペットボトルのへこみ方が激しい。ペットボトルのへこみ方の違いを目にすることで、「冷たい水にはより多くのCO₂が溶け込む」という科学的な事実が、すんなりと理解できるのだ。

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 酸性化による生物への悪影響は、水温が低い北極海や南極海で早い時期から報告されており、「CO₂は冷たい水によく溶けやすい」ことが、その要因の一つになっている。

 滝川さんの実験は、そうした酸性化問題の本質的な部分を、「ペットボトルの大きなへこみ」という形で可視化しており、さすがと言うほかない。

 実験用のCO₂は、スプレー缶に入ったものを通販サイトなどで買うこともできるが、安くたくさんのCO₂をつくるには、100円ショップなどで「重曹」と「クエン酸」を買ってきて反応させるのがおすすめだ。滝川さんによると、重曹10グラム、クエン酸25グラムに水50ccを加えると、2.7リットルのCO₂が発生する。食品保存用の袋の中で反応させ、漏れないようにセロハンテープを貼るなどしたうえで、折れ曲がるタイプのストローを使って取り出すとよいという。

 「海洋酸性化という言葉は、まだ一般の人にはほとんど知られていない。小中高校の理科の先生たちも、酸性化という言葉は知っていても、そのメカニズムや生態系に与える影響の深刻さについてはまだ認知度が低い」。滝川さんは、そう指摘する。

 そして、「海洋酸性化の実験」についてこう語る。

 「ぜひ自分で実験をやってみてください。そして、その様子を家族や友人に見せることで、海洋酸性化の問題を話し合うきっかけにしてもらえればと思います」

 

 (科学ジャーナリスト 山本智之)

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