海の酸性化 もう一つのCO2問題

SDGsのターゲット

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持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標

 

 

 私たち人類が化石燃料の消費や森林破壊を続ければ、大気中の二酸化炭素(CO₂)濃度が上昇し、海の酸性化が進んでしまう。そのこと自体は、理論的には昔から知られていた。しかし、海の酸性化について危機感を抱いた科学者たちが、その深刻さを世界に向けて大々的にアピールをしたのは、今から13年ほど前のことだ。

 2009年6月、日本学術会議など世界の約100団体でつくる「インターアカデミーパネル」(IAP、現在はインターアカデミーパートナーシップに統合)は声明文を発表し、海洋酸性化について「サンゴ礁などの海洋生態系に深刻な影響を与え、海産物の生産を減らすことになる」と警告を発した。

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サンゴの健康状態を調査・記録する「リーフチェック」=小笠原諸島・母島沖©朝日新聞社

 

 

 その後、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が13年9月に公表した第5次評価報告書(AR5)の第1作業部会報告書にも、「排出された人為起源のCO₂の約3割が海洋に吸収され、海洋酸性化を引き起こしている」との文言が盛り込まれた。

 そして、近年は毎日のようにニュースに登場するようになった「SDGs」(持続可能な開発目標)にも、実は海の酸性化に関する項目が盛り込まれている。

 SDGsは「Sustainable Development Goals」の略。国連総会の首脳会合で15年9月、全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた国際目標だ。これは簡単に言えば、私たちの社会、そして地球環境を未来の世代につないでいくために何を解決しなければならないのか、その課題をまとめたリストである。30年までの達成をめざすもので、「誰一人、置き去りにしない(leave no one behind)」という理念を掲げている。

 SDGsは「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「ジェンダー平等を実現しよう」など、17項目のゴール(目標)で構成されている。そして、それぞれの目標を達成するために、より具体的な内容を記述した「ターゲット」が169項目ある。

 では、SDGsの中で、海の酸性化の問題はどの目標の中に位置づけられているかというと、それは14番目の「海の豊かさを守ろう」だ。

 以下の表は、目標14「海の豊かさを守ろう」を構成する具体的な「ターゲット」だ。

 

           目標14「海の豊かさを守ろう」の各ターゲット
14.1 海洋汚染を防止・削減する 2025 年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。
14.2 海洋・沿岸の生態系を回復させる 2020 年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。
14.3 海洋酸性化の影響を最小限にする あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する。
14.4 漁獲を規制し、不適切な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020 年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。
14.5 沿岸域及び海域の10%を保全する 2020 年までに、国内法及び国際法にのっとり、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10 %を保全する。
14.6 不適切な漁獲につながる補助金を禁止・撤廃し、同様の新たな補助金も導入しない 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020 年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する。
14.7 漁業・水産養殖・観光の持続可能な管理により、開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増やす 2030 年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。
14.a 海洋の健全性と海洋生物多様性の向上のために、海洋技術を移転する 海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。
14.b 小規模・零細漁業者の海洋資源・市場へのアクセスを提供する 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。
14.c 国際法を実施し、海洋及び海洋資源の保全、持続可能な利用を強化する 「我々の求める未来」のパラ158 において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全および持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全および持続可能な利用を強化する。
 <環境省の資料から抜粋>

 

 海の豊かさを守るための課題として、真っ先に掲げられているのは「海洋汚染」の問題だ。増え続けるプラスチックごみをはじめとする海洋ごみの問題や、赤潮の原因となる富栄養化などへの対策を求めている。また、水産資源の「乱獲」も大きなテーマで、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を終わらせるための計画を実施すること、などの記述もある。

 これらの課題と並んで、「海洋酸性化の影響を最小限にする」というターゲットが、明記されているのだ。

 海の酸性化は、限られた海域で起こる現象ではなく、全世界の海で進行しつつある環境問題だ。このため、一つの国の努力では解決することが不可能であり、まさに「全ての国が取り組むべき普遍的な課題」としてのSDGsに掲げるべきテーマだといえる。

 「SDGs」という言葉そのものは近年、多くの人に広く知られるようになった。ただ、その具体的な中身に関する認知度は、あまり高くないのが現状だろう。そして、「地球温暖化」や「海洋ごみ」といった環境問題のキーワードに比べて、「海の酸性化」(海洋酸性化)という言葉もまた、まだまだマイナーな存在ではないかと感じる。

 

 (科学ジャーナリスト 山本智之)

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