プラスチックごみも酸性化の原因に?
プラスチックごみを減らすための新しい法律「プラスチック資源循環促進法」が、今年4月にスタートした。この法律では、プラスチック製のフォークやスプーン、ハンガーなどの12品目を多く配っている事業者に、配り方を見直すよう義務づけている。
具体的には、プラスチック製品を木製などの素材に切り替えたり、有料化したりといった取り組みが求められる。プラスチックの使用量を減らす手段として、従来よりも軽量化した製品を導入するというのも選択肢の一つだ。たとえば、コンビニ大手のローソンでは、柄の部分に穴をあけて軽量化したスプーンやフォークを、一部の店舗で配り始めた。
年間5トン以上の使い捨てプラスチックを配っている事業者の場合、対策を講じないでいると、今後は50万円以下の罰金が科されることになる。こうした法律が登場した背景には、日本を含む世界中の国々で深刻化している「海のプラごみ問題」がある。
軽くて丈夫、そして安価に大量生産できるのがプラスチックの魅力だが、いったんごみとして海に入り込むと、分解されずにいつまでも残り続け、海流に乗って拡散する。そして、太陽の紫外線や波の力などで砕けると、大きさが5ミリ以下の「マイクロプラスチック」となり、食用の魚や貝をはじめとするさまざまな海洋生物に取り込まれてしまう。
世界では年間に480万~1270万トンのプラスチックごみが海に入り込んでいるという推計がある。また、2050年までに、海のプラスチックごみは世界中の魚の重量を超えてしまうかもしれない、という予測も発表されている。
経済協力開発機構(OECD)が今年2月に発表した報告書によると、世界のプラスチックの年間生産量は2000年の時点では2億3400万トンだったが、19年には4億6000万トンと約2倍に増えた。そして、海のプラごみ問題を解決するためには、私たち人類がプラスチックの使用量そのものを減らすことが最も重要であると、複数の専門家が指摘している。
日本の新法「プラスチック資源循環促進法」については、「対象の12品目だけ減らしても、プラスチックごみ全体を減らす効果は少ない」と批判する声も聞かれる。だが、コンビニでのフォークやスプーンの配布といった暮らしに身近な場面で進む改革は、私たち消費者の意識を変えていくうえでは一定の効果があるのではないかと私は考えている。
記憶に新しいところでは、20年7月に国内でレジ袋が有料化された。「レジ袋はいらない」という人は有料化される前、30%しかいなかったが、有料化後には72%にまで増えたことが調査で明らかになった。これは、とても大きな意識の変化ではないかと思う。
ここで、日本のプラごみの現状を改めて見てみよう。一般社団法人プラスチック循環利用協会が発行する21年版の報告書によると、国内の廃プラスチックの総排出量(19年)は850万トンと推定される。
注目していただきたいのは、その処理方法だ。
「埋め立て」は意外に少なくて、6%(54万トン)にとどまる。プラスチックに再生する「マテリアルリサイクル」は22%(186万トン)、化学処理して油にするなどの「ケミカルリサイクル」は3%(27万トン)となっている。
円グラフを見ていただくと一目瞭然なのだが、圧倒的に多いのは「燃やしてエネルギー回収」の60%(513万トン)だ。これは統計上は「サーマルリサイクル」と呼ばれているものだが、海外では「リサイクル処理」というカテゴリーには含めないのが一般的だ。というのも、プラスチックごみを使い、発電や熱利用といった形でエネルギー回収をするのが目的だと言っても、焼却すれば二酸化炭素(CO₂)が排出されてしまうからだ。そして、有効利用されずにただ燃やされる「単純焼却」の8%(70万トン)と合わせると、日本の廃プラスチックの実に7割近くが燃やして処理されていることになる。
このように、私たちがプラごみをたくさん出すほど、CO₂の排出を増やしてしまうという構図になっているのだ。そして、放出されたCO₂のうち、大気中に残存したものは地球温暖化に拍車をかけ、大気から海面を通して溶け込んだものは、海の酸性化を進めてしまう。
つまり、「プラごみ問題」と「海の酸性化」は、実は深く結びついているのだ。「風が吹けば桶屋(おけや)がもうかる」という言葉があるが、「プラごみを増やせば、海の酸性化が進む」のである。
(科学ジャーナリスト 山本智之)