人為起源CO₂ 4分の1を海が吸収
今年5月にドイツで開かれた主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合では、温室効果ガスの大きな排出源となっている石炭火力発電所について、「段階的に廃止する」との共同声明が発表された。石炭火力発電は一般に、燃焼して同じ電気をつくるために排出される二酸化炭素(CO₂)の量が、天然ガス火力発電の2倍近くになる。このため、脱炭素化に向けて、石炭火力の問題は避けて通れないのだ。
声明には、石炭火力の廃止時期は盛り込まれなかった。それでも、ウクライナ危機で世界的にエネルギー供給が不安定化する中で、「温暖化対策の手を緩めてはいけない」と各国が改めて確認し合った意義は大きい。
石炭をはじめとする「化石燃料」の消費で排出されるCO₂の量は、新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界経済が停滞した影響で一時的に減ったが、現状は既にコロナ前のレベルに“回復”したとみられている。
地球上で二酸化炭素がどのように循環しているのか、その状況をとりまとめた報告書「グローバル・カーボン・バジェット(Global Carbon Budget)」(https://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/)によると、新型コロナの影響で、2020年に化石燃料の消費によって排出されたCO₂の量は、前年より5.4%減少した。ところが、21年は36.4ギガトン(ギガは10億)で、前年比で4.9%の排出増になると見積もられた。
この報告書は、01年にスタートしたグローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)という国際共同研究プロジェクトの成果として毎年公表しているもので、最新版の作成には、日本の国立環境研究所や気象研究所を含む世界各地の70を超す研究機関や大学の研究者が参画した。それぞれの研究者が、大気や海洋のCO₂観測データや化石燃料の消費量、コンピューターを使ったモデル計算の結果などの成果を持ち寄ることで、世界の状況が俯瞰(ふかん)できる貴重な資料となっている。
報告書の執筆者の一人で、国立環境研究所地球環境研究センター主任研究員の中岡慎一郎さんは「化石燃料の消費に伴うCO₂の排出量を国別にみると、中国の場合、コロナ下の20年もむしろ微増となっている。中国やインドなどの国々では、現在も石炭火力が多く使われており、CO₂の排出を増やす原因になっている」と指摘する。
報告書によると、化石燃料の燃焼によって全世界で排出されるCO₂は、年間34.8ギガトン(11~20年の平均)。これに加えて、森林破壊などの「土地利用の変化」によるCO₂の排出が4.1ギガトンあり、人間活動に起因するCO₂の放出量は合計で38.9ギガトンにのぼる。
こうした人為起源CO₂のうち、大気中に滞留する分は18.6ギガトンで、全体の約48%を占める。陸上の森林などが吸収する量は11.2ギガトンで全体の約29%、そして、海洋が吸収する量は10.2ギガトンで約26%と推計されている。
排出された人為起源CO₂のうち、大気中に滞留する分は地球温暖化を促進し、海にとけ込んだ分は酸性化の原因となる。このように、地球温暖化と海の酸性化は、いわば“双子”の関係にある。
海はCO₂をたくさん吸収して、温暖化の進行を抑えてくれている――。海洋によるCO₂の吸収をめぐっては、かつてはそうした「良い面」ばかりが強調されていた。しかし、人間活動に伴って放出されたCO₂を、海はひたすらため込んできた。その結果、海の酸性化が進みつつあり、将来は海の生態系や漁業に影響が出る恐れがあると懸念されている。
海は、私たち人類が大気中に放出したCO₂の約4分の1を、黙々と吸収し続けている。その事実を、改めて心に刻みたい。
(科学ジャーナリスト 山本智之)