木育でつながる地域

インクルージョンと木育 奈良おもちゃ美術館がめざすもの②

写真1 「おもちゃ学芸員」によるイベント進行の様子

 全国で13館目、関西初のおもちゃ美術館として今年3月にオープンした奈良おもちゃ美術館。これまでのおもちゃ美術館と大きく異なるコンセプトは、「インクルージョン」をめざしたことでした。今回は、その具体的な取り組みを紹介します。

 開館前や閉館後の館内では、スタッフたちがおもちゃを一つひとつ整えていきます。床を掃き、窓を拭き、受付の準備をする――。そんな細やかな仕事の積み重ねが、子どもたちが安心して遊べる空間を支えています。奈良おもちゃ美術館では、「メンバー」と呼ばれる障害のある人たち、またその仕事を支える「支援員」も、ボランティアスタッフの「おもちゃ学芸員」、パートや正職員と一緒に、肩を並べて働いています。

 「メンバー」の仕事で象徴的なのが、積み木のパフォーマンスです。人の背丈ほどにまで積み上げた積み木を来館者が崩すと、美しく倒れる瞬間に大きな歓声が上がります。その様子を、「メンバー」は誇らしげに微笑みながら見守っています。この舞台は神楽舞台を模した特別な空間で、積み木には吉野産ヒノキが使われています。2,000ピースの積み木は、納品後に「メンバー」が一つひとつ磨き、角やささくれを取って仕上げました。今でも傷んだピースを見つけると、その都度やすりをかけ直します。手をかけることで木のおもちゃが長く使われ、あそびの安全と楽しさが守られているのです。

 他にも、館内を清掃して子どもが安心して遊べる場を保つこと、展示室で遊ばれたおもちゃを元の位置に戻すことなど、「メンバー」は目立たないけれど欠かせない役割を担っています。自分の役割を果たしているという実感が、日々のやりがいへとつながっています。

 奈良おもちゃ美術館の開館前、「接客は無理だと思っていたけれど、研修をしてみたら楽しい。やれるかもしれない」と話していた「メンバー」がいました。彼は今も毎週シフトに入ってます。別の「メンバー」は積み木の技術を少しずつ磨き、より高く、より美しく積み上げられるようになりました
 「支援員」からも「コミュニケーションが苦手と話していた『メンバー』が、ここで働くことで自然に笑顔が増えた」、「別の仕事も率先して行うようになった」という声が聞かれます。小さな成長の積み重ねが自信につながり、働く喜びを深めています。

写真2 イベントをサポートする「支援員」の様子

 多様な人が関わることで、木育の場でもある奈良おもちゃ美術館はより豊かに、包容力のあるものへと育まれていきます。

 オープンして間もない奈良おもちゃ美術館での実践は、始まったばかりです。しかし、おもちゃを手に取る子どもの笑顔と、それを支えるスタッフ、そして「メンバー」の笑顔が重なり合う光景は、すでに来館者の心に「ここは誰もが受け入れられる場所だ」という安心感を届けています。木のぬくもりに包まれた館内の日常には、「木育」と「インクルージョン」が確かに響き合いながら息づいています。

写真3 イベントをサポートする「支援員」の様子

 (芸術と遊び創造協会 地域デザイン部 田向優)

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