木育でつながる地域

豪雨災害復興から木育へ 福岡県朝倉市で木育サミット

第12回となる木育サミットの様子=2024年11月30日、福岡県朝倉市

■豪雨被災地で「森と都市をつなぐ木育」をテーマに

 木育サミットは、東京おもちゃ美術館・福岡おもちゃ美術館を運営する芸術と遊び創造協会が、2014年から継続開催している木育普及啓発のためのイベントです。コロナ禍でオンライン開催となった第8~10回を除いて、全国各地を会場としながら開催してきました。

 2024年11月30日に開催された第12回となる今回の木育サミットは、九州では初開催となり、福岡県の中でも自然豊かな地域である朝倉市を会場としました。その背景には、大きく二つの理由があります。

 一つめは、私たちの運営する福岡おもちゃ美術館(福岡県福岡市)の床材の調達の際に、朝倉市産の100年ヒノキを導入した、ご縁のある地域ということがありました。二つめには、朝倉市が2017年7月に発生した九州北部豪雨の主な被災地であったことに関係しています。この豪雨の際に、大量の流木によって町が埋め尽くされた様子は、報道でも全国的に取り上げられました。山の木が「悪者扱い」されてしまうような風潮もある中で、「大切に育てられた資源」としての木の価値を改めて問い直し、復興に役立てるような動きが生まれた地域でもあるのです。この災害復興のプロセスの一つに、「木育」との関わりを見出したことも、福岡県朝倉市にて開催する大きな理由でした。

■新たに朝倉市がウッドスタート宣言

ウッドスタート宣言調印式の様子(左から、東京おもちゃ美術館・多田千尋館長、朝倉市・林裕二市長、グリーンコープ共同体・日高容子代表理事、林野庁・青山豊久長官)

 

 開催地である朝倉市は、今回の木育サミットにおいて、ウッドスタート宣言に調印、全国の自治体では63番目のウッドスタート宣言自治体となりました。朝倉市の林裕二市長からは、「ウッドスタート宣言を機に、子どもたちが木に親しむ機会を増やしたり、林業がさらに発展したりすることを期待したい。また、木材産業に携わる人や朝倉市のみなさんにとって、木が持つ多くの可能性について改めて考えていただけるきっかけになると受け止めている」と、期待が寄せられました。

 また、九州北部豪雨で大きな被害を受けた朝倉市への復興支援である、九州大学によるプロジェクトについて感謝の意も伝えられました。このプロジェクトでは、朝倉市産の杉を使った「おきあがりこぼし」を市内で誕生した赤ちゃんにプレゼントする活動が、災害の翌年から継続して行われていました。

あさくら杉おきあがりこぼし展による展示

 災害復興のあらゆる場面で支援にあたった一般社団法人グリーンコープ共同体は、今回の木育サミットを共催するとともに、朝倉市と同様、ウッドスタート宣言に調印しました。来年から、組合員に生まれる年間約6,500人の赤ちゃんのもとに国産の木のおもちゃが届けられることになり、43万人の組合員とともに木育の大きな一歩を踏み出します。

■木育サミットを総括して―全国各地での木育の広がり・深まり―

会場となった大ホールで行われた展示・ショートセミナー

 今回の木育サミットでは、福岡県内、九州地方を中心に、木育を全国各地で実践している自治体・企業・団体の方が集結して、講演やシンポジウム、ショートセミナーなどが行われました。「木育」という言葉をまだ聞き慣れない方も多い中で、参加した約600人の皆さんが木育の明日への一歩を進めていただくような機会となりました。参加者からは「都市と森、森と海、そして人、すべてにおいて『つながる」ことの大切さを学べる機会だった」「木育が子どもの発達に良い影響を与えるだけではなく、すべての年代にとっても生活に取り入れることが大切だと感じた」といった感想も寄せられました。

おもちゃ美術館エグゼクティブディレクター 石井今日子による基調講演

 自然災害のときにも、山や森の現状を理解する都市部の住民が増えることは、災害復興に寄与する、つまり、木育は災害復興にもつながることを朝倉市における実践から学ぶ機会となりました。大きなスタートをきった朝倉市において、日常生活や子育てなどに木を取り入れていくことから始まり、川上から川下までがつながり、木育を広めていく場づくりや、木育を広める人づくりの動きが進展していくことが期待されます。

 (東京おもちゃ美術館 高野 祥代)

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