木育でつながる地域

人から人へ、想いをつなぐ積み木『おおなんみんなのつみき』 ~邑南町の誕生祝品ができるまで~

邑南町の誕生祝品「おおなんみんなのつみき」※旧デザイン

 島根県の中部に位置する邑南(おおなん)町は、2004(平成16)年10月1日に羽須美村(旧)、瑞穂町(旧)、石見町(旧)の3町村合併により新しく誕生し、「夢響きあう元気の郷づくり」をテーマに新しい町づくりがスタートしました。町名の「邑南」は古くから三町村の地域全体を表す名称として親しまれているとともに、「邑」には、小さな都、人の多く集まるところの意味があり、「南」には人情温かく産物が豊かに実り、和やかで将来に夢と希望を与える明るいイメージがあることから名づけられました。

 邑南町は2016(平成28)年度にウッドスタート宣言を行い、1歳半健診時に、矢上高等学校の生徒たちによりデザインされた木のおもちゃ「おおなんみんなのつみき」という誕生祝品を贈るウッドスタートの取り組みをしています。この取り組みは、島根県立石見養護学校高等部の木工班、みずもく協同組合、邑南町地域みらい課・農林振興課・保健課、デザイナーのこめじるし、HEREDIA KOMIYAMAと、たくさんの方の協働により継続しています。邑南町で育っていく赤ちゃんへ、子育てをされるご家族の方へ、「大切につかってください」という町の人からの想いがこめられています。

 ウッドスタート事業のはじまりは、宣言の1年前にさかのぼります。邑南町内の小学生・中学生・高校生と大人が一堂に会し、邑南町の良さや暮らしの課題などについて学び、意見交換をする場「おおなんドリーム 学びのつどい」の中で、石見養護学校の生徒が積み木のプレゼントを提案したことがきっかけでした。提案した生徒たちは卒業しましたが、積み木に込められた想いと共に、今も尚、後輩たちへと受け継がれています。

石見養護学校高等部の木工班の生徒たち

 

 石見養護学校で木工班の担当をされている平木先生は、以前インタビューを受けた際に「2ヶ月ごとの納期がある中で、週2回の作業学習の時間の中で生徒たちがつくることのできる積み木の数は限られている。しかしながら時間をかけて積み木をつくりあげるたびに、その生徒の未来につながる力も培われていく。生徒にとっての一箱が、生徒にとっての一歩であり、それは成長著しい1歳半の赤ちゃんへの、他の何にも代えられない贈り物になる」と語っています。
 年間70個近く製作されている積み木は、一つ一つ丁寧につくられており、積み木を触っているだけで温かい気持ちが伝わる優しい積み木に仕上がっています。組み立て、磨き、塗装、仕上げ、焼印という長い工程を経て、更に検品を重ねてやっと赤ちゃんの手元に届きます。慎重な作業を意識しているため、これまでに贈られた積み木の不備は一度もありません。

丁寧な作業工程の様子

 

 ウッドスタートの開始からおよそ5年間を経た2022(令和4)年度、積み木の新しいデザインづくりに取り組みました。製品開発ではこれまで積み重ねてきた経験やノウハウを生かし、さらに兄弟で積み木を受け取った際の遊び方などを考慮し、積み木が増えても楽しく遊べるデザインを検討しました。開発期間を経て、昨年度から配布を始めた新しいデザインの積み木は、邑南町で育った6種類の木を使い、音の鳴る顔パーツのほか、色や重さが異なる計15のパーツで構成され、並べたり積み上げたりしながら、いろいろな組み合わせで遊べる積み木となっています。

オオサンショウウオの形の積み木 ※旧デザイン

 

 製作している生徒からは「鈴の音が好き」「木がいろいろな形に変わるのが楽しい」「ニスを塗ってピカピカになるところが好き」という声もあり、積み木を楽しんで作っていることが伝わります。様々な人とつながって積み木が生まれたこと、邑南町産材を使って町と深くつながっていること、そのストーリー性を意識することは、邑南町の皆さんが当初から大切にされていることです。『おおなんみんなのつみき』は、人から人へ“想いをつなぐ誕生祝品”であり、これからも次世代へと木育のバトンがつながっていきます。

 (認定NPO法人芸術と遊び創造協会 山本菜々)

好きな形がつくれる変形自在な「おおなんみんなのつみき」※現デザイン

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