木育でつながる地域

ウッドスタートと木育10年のあゆみ 塩尻市

「木育フェス」実行委員会メンバーと「しおじりウッドトイボックス」

 長野県中部に位置する塩尻市の伝統産業「木曽漆器」は、400年以上の伝統を誇ります。漆器の需要が低迷するなか、近年は豊富な森林資源を生かした木製品の販路を、「木育」を通じて広げようという取り組みに力を入れています。今回は塩尻市での木育活動を取り上げます。

 塩尻市は市域の約75%が森林で、このうち約7割が民有林です。アカマツ、カラマツが中心ですが8割以上が樹齢50年以上で、木材として活用するための伐期を迎えています。一方、木曽五木をはじめとする豊かな森林資源を生かして発展した木曽漆器は、近年需要が低迷。漆器から他の木製品製造へのシフトにより、生き残りを図りたいという危機感が、塩尻商工会議所の会員企業にありました。

 そこで注目されたのが木育でした。

 当初は認知度が低かったのですが、2011年に塩尻商工会議所と市が一緒に、宮崎県で開催された「木育キャラバン」を視察したことがきっかけとなり、塩尻市でも「木育キャラバン」を開くための実行委員会を設立。「木育フェスティバルin信州しおじり」(以下、「木育フェス」)というイベントがスタートしました。

 「木育フェス」では、「川上」と呼ばれる森林所有者や伐採業者から「川下」と呼ばれる住宅、家具メーカーまで、幅広い関係機関を集めた実行委員会を構成し、あらゆる業界、世代を巻き込むことで長く続けるための体制づくりと次世代への継承を目指しています。

「木育円卓会議」では川上から川下まで関係者が集い、意見交換する

 

 毎年「木育円卓会議」での継続的な意見交換も行い、補助金に頼らない協賛金による運営も実現しています。

木のおもちゃの贈呈式

 

 市は2013年度に「ウッドスタート宣言」を行い、その2年後から地元で作られた木製玩具を誕生祝い品として市民に配布することで、赤ちゃんの頃から木に親しめる環境を整えました。この事業は「子育てしやすい町日本一」を目指す市のビジョンにも合致しており、継続されています。

「第3回全国木育サミットin塩尻」トークセッション

「第3回全国木育サミットin塩尻」C.W.ニコル氏による講演

 2016年、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会、東京おもちゃ美術館は市、塩尻商工会議所と共催で「第3回全国木育サミットin塩尻」を開催。木育サミットとして初の地方開催となったこの時は、塩尻の木育活動をはじめ、全国各地の木育の先進事例を塩尻から全国に発信しました。

 取り組みを始めて10年が過ぎた2022年に開かれた「第10回木育サミット」では、百瀬敬市長が「子どもの頃から木に親しむこと、とくに3歳までにいかに木や自然のものに触れるかが人間形成の上でも大事なので、木育は重要と考えて力を入れている」と取り組みの意義を強調しました。

 2023年8月には、「第10回木育フェスティバル イン信州しおじり」が開かれました。コロナ禍でイベントができない期間が続いたこともあり、塩尻市にとっては3年遅れの10周年イベントとなりました。

 当日のパネルディスカッションでは、産官学の登壇者から、それぞれの立場や業界で引き続き木育活動に尽力しようという決意表明がなされました。そして「意見交換する場を持ち続けながら、全国で木育を推進しよう」というメッセージが発信されました。

 会場では、木工体験や森林に関する展示など木の恵みを感じる約30の企画が、訪れた人を楽しませました。

「森のフェスティバル」丸太切り体験

かんなで木を削る体験や木工機械で自分だけのおもちゃをつくる体験を通じて、木材加工について理解を深めた

 「ウッドスタート」や「木育フェス」、「全国木育サミットin塩尻」など長野県初となる木育事業は、木育を塩尻市の新たなブランドとして県内外にアピールすることにつながっています。「ウッドスタート」や「木育フェス」、森林の中で様々なアクティビティを体験できる「森のフェスティバル」の継続により、市民にも『木育』という言葉が浸透しています。

 塩尻オリジナルの木のおもちゃパッケージ「しおじりウッドトイボックス」のイベントなどでの活用や、保育士を対象とした「木育インストラクター養成講座」は、実際の現場での木育推進に生かされています。

幅広い木育を通じて、塩尻市は地域課題となっている森林再生に取り組むと共に、ウッドスタートを通じて全国の木育推進団体と切磋琢磨しながら、カーボンニュートラルの実現を目指しています。

 (東京おもちゃ美術館 鈴木 純夏)

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