木育を積極的に推進! 那賀町山のおもちゃ美術館②
那賀町山のおもちゃ美術館は、2023年3月、全国で11番目のおもちゃ美術館として徳島県那賀町にオープンした。
今、全国に広がりつつあるおもちゃ美術館は、名称やロゴマーク、また地域材を活用しているという点では共通している部分が多い。ただ館内にあるコンテンツについては、各館ごとにオリジナルで考えられている。その地域ならではの特産物や名所旧跡、文化や伝統、歴史などに基づき、「他にはない、ここだけで楽しめるもの」が作られている。
その意味で、那賀町山のおもちゃ美術館も、他のおもちゃ美術館と比較して、とてもユニーク、那賀町らしさを体現したおもちゃ美術館になっている。
そもそも12館あるおもちゃ美術館の中でも、名称に「山の」とついているおもちゃ美術館はここだけだ。あえて他館と異なる「山の」にした理由は、那賀町が、昔も今も、徳島林業のど真ん中にいること、そしてこのおもちゃ美術館を、他館以上に林業の活性化及び林業従事者の育成に特化した場所、つまり「木育の拠点」にしたいという強い思い、心意気があるからである。
東京おもちゃ美術館では木育のめざすところを「木育かきくけこ」にまとめているが、このうちの「け」=「経済(林業、林産業)を活性化させる木育」に重きを置いているということで、同じことが、こちらの名称にも表れているのである。
よって、館内コンテンツも、その「心意気」に合致したものとなっている。
その象徴が「りんぎょうひろば」だ。
このコーナーはまさに林業という仕事を「遊び化」して、子どもでもその一端を体験できる場所になっている。
ここに来た子どもたちは、最初に安全装備を身につける。実際に山での作業でも使われている本物の装備だ。そして次にクイズが出される。那賀町のスギの苗木を見せながら、これが何の木なのか、大きくなった後、何に使われるのかなど、まずは興味をもってもらうような問いかけをする。
これまでの体験で印象深かったのは、最初のクイズで苗木を見たときに、那賀町のほとんどの子どもたちが「スギ」と答えるのに対し、町外の子どもたちは「マツ」とか「モミ」と答えることが多いことである。那賀町の子どもたちであっても、昔のように遊びの中で山に入ったり、林業の仕事の手伝いをしたりすることはほとんどない。にもかかわらずすぐに「スギ」と答えられるのは、日常的な暮らしの中で、「なんとなく」理解しているからであろう。「身近にあること」=「理解が深まる」というほど、単純な図式が成り立つわけではないが、少なくとも那賀町の場合には、「門前の小僧習わぬ経を読む」よろしく、暮らしの中で、自然と木の種類も覚えているといえるのかもしれない。
那賀町山のおもちゃ美術館では、通常の館内スタッフとは別に、開館以前から那賀町で木育に取り組んできたスタッフが配置されていることも大きな特徴である。常に館内において木育をどう進めていくのかをじっくりと考え、館内のコンテンツを生かす方法を編み出したり、木育ワークショップを企画し、自ら木育活動を進めたりしている。
時には地域の小中学校にも顔を出し、出張木育授業を行うこともある。こうした木育に特化した人材を確保したことで、単に木のおもちゃで遊んで過ごすということにとどまらず、どうして地域材を使っているのか、木材を使うことが、地域の森にとどまらず、地球環境にとってどういう意味があるのかを伝えることができる。
しかも那賀町山のおもちゃ美術館では、今後の計画として、館のすぐ裏手にある町有林を活用した、実際の林業体験(植林、枝打ち、下草刈り、伐倒など)を行うことも予定している。基本構想では、その町有林に、林業で使われるモノレールを設置することもうたわれている。那賀町の林業ではよく行われているワイヤーを使った架線集材の模擬的な体験ができるようなコーナーの設置も検討されている。館内での遊びが、実際の山や森の魅力、林業の仕事への興味や関心につながり、そして実際の山での体験に広がっていく。そうした唯一無二の「木育の拠点」をめざし、新しい取り組みに挑戦し続けている。
このように山にとても近い立地、林業に直結した立地を生かした、那賀町ならではのコンテンツをつくることで、遊びながら、楽しみながら、森林や地球環境だけでなく、林業そのものへの興味関心を高めることができる。そしてひいては(簡単なことではないが)林業従事者の育成にもつながるようなおもちゃ美術館になることを期待している。
(東京おもちゃ美術館副館長 馬場清)