全国に広がるおもちゃ美術館と木育 花巻おもちゃ美術館①
「奇跡の大食堂」と「遊び」のコラボレーション
前回の連載までは、現存の美術館で最も「南」にある「やんばる森のおもちゃ美術館」を紹介しましたが、今回からは最も「北」に位置する「花巻おもちゃ美術館」について紹介します。
岩手県花巻市は県中西部に位置し、人口約9万2千人。岩手では4番目に人口の多い都市です。宮沢賢治誕生の地として知られ、賢治が「イーハトーブ(理想郷)」と名付けた美しき風景、雄大な森林を誇っており、また「わんこそば」発祥の地とも言われています。最近ではメジャーリーグで大活躍する大谷翔平選手の母校、花巻東高校などによっても社会的認知度が高まってきています。
花巻おもちゃ美術館は2020年7月20日、そのような文化や自然、スポーツに関連する地域資源が豊かな花巻市に開館した、全国で5館目のおもちゃ美術館です。
入るビルの6階には通称「奇跡の大食堂」と呼ばれ、コロナ禍以前の実績で年間30万人もの集客を誇る「マルカンビル大食堂」があります。
同大食堂は1973年のオープン以降、「花巻市民の台所」として多くの方々に愛されていましたが、郊外の大型スーパーの進出、建物の老朽化に伴い2016年に閉店を余儀なくされました。しかし、再開を望む声も多く、現在のビルの運営会社である「株式会社上町家守舎」が17年2月に再開を実現させました。花巻おもちゃ美術館は、この施設の2階に設立されることとなり、今ではこのビルに遊びに来たら「2階で遊んで、6階で食べる」というのが定番のコースになってきています。
「世界で一番、『カッコいい』木材店」の挑戦
花巻おもちゃ美術館の設立は、同美術館を設立・運営している「株式会社小友木材店」の小友康広氏が、東京おもちゃ美術館を訪れたことから始まります。小友氏は自身の会社の理念に「世界で一番、『カッコいい』木材店」を目指すことを掲げています。
さまざまな事業を進めている中で、東京おもちゃ美術館を視察した際、その洗練された空間デザインや木のおもちゃに触れ、「これこそが木のカッコいい見せ方、使い方ではないか?」と思い立ち、花巻おもちゃ美術館の設立に至りました。全国の姉妹おもちゃ美術館の中でも唯一、木材店が運営する「木育おもちゃ美術館」として、世代を超えた方々が集う場所に成長し、コロナ禍が落ち着いてきた2022年度には、年間約6万人もの方々が訪れています。
「木育」=「地元愛」
花巻おもちゃ美術館は地元花巻、広くは岩手県の魅力をふんだんに伝えるおもちゃ美術館です。
館内の床や家具のほぼ全てが岩手県産材で作られています。岩手といえば日本でも有数の広葉樹の産地。使われている樹種は30種類以上にもなります。その他にも、花巻市の代表的な文化資源である「宮沢賢治」をオマージュした遊具、おもちゃ、わんこそば、市内の大迫地区の名産であるぶどう、めがね橋など、地域の魅力を伝えるおもちゃがそろいます。
「木育」の目指すところは、一言で言えば「木のファンになってもらう」ことですが、さらに広い視点で見れば、それぞれが生まれた地域、ひいては日本という国のファンになることだと思っています。そのような意味で考えても「地域文化の魅力を木で表現」し、少しでも地域の魅力に気づいてもらうというアプローチは、親和性が高く、かつ効率的なのではないかと思います。
(東京おもちゃ美術館 星野太郎)