木育とおもちゃ美術館

全国に広がるおもちゃ美術館と木育 長門おもちゃ美術館①

「森は海の恋人」 五感で楽しむクルーズ

 2018年4月7日、全国で3番目のおもちゃ美術館として開館した「長門おもちゃ美術館」は、まもなく5周年を迎えます。山口県の日本海側に位置し、仙崎港に代表される漁業の盛んな長門市にできました。「海と人ときをつなぐ」をテーマに掲げた長門おもちゃ美術館のこれまでの取り組みについて紹介します。

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今春に5周年を迎える長門おもちゃ美術館=写真はいずれも東京おもちゃ美術館提供

 

 長門市は「林業・林産業の発展」「子育て世代に選ばれるまちづくり」をめざしています。そんな市と、地域の有志によるNPO法人「人と木」、東京おもちゃ美術館の3者が、2016年に「ウッドスタート宣言」をし、官民連携での木育活動がスタートしました。

 全国各地の木のおもちゃで遊べる「木育キャラバン」の開催や、地域の職人が地元材でつくった木工おもちゃを活用した「誕生祝い品」の贈呈などを実施。そして、さらなる木育を進めようと、おもちゃ美術館構想が持ち上がりました。

 おもちゃ美術館を建てる予定地は当時、すぐ隣が港でした。そんな景観を最大限に生かすため、木を活用したおもちゃ美術館専用の観光船(キッズクルーズ船)をつくりました。子どもたちが海の上で木のぬくもりを楽しむことができます。まさに、海と山の魅力をどちらも体験できる唯一無二の“水上おもちゃ美術館”が生まれることとなったのです。

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木質化された観光船で海上クルーズも楽しめる

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観光船内の様子

 

 キッズクルーズ船は、廃船寸前だった「弁天丸」という観光船をリニューアルしました。おもちゃ美術館に隣接する青海島観光汽船の協力のもと、地元の造船所の方々の手により、木質化された船へと生まれ変わりました。内装や家具には、長門産の木材がふんだんに活用され、靴を脱いで木のおもちゃで遊ぶスペースも設けられました。

 実際、キッズクルーズ船はおもちゃ美術館専用の桟橋から出航し、波の穏やかな内海をめぐる15分ほどのミニクルーズを楽しむことができます。折り返し地点ではエンジンを停止させ、静かな海の上に浮かぶ船内で、ゆらゆらとやさしい波に揺られながら、思い思いに過ごすことができます。

 エンジンを切った船内からは、波の音が聞こえたり、水面から透き通った海の底が見えたりと、日常では味わえない海の魅力を間近に感じることができます。よく晴れた日には、長門おもちゃ美術館のロゴのカラーにもなった「浅葱色(あさぎいろ)」の海を見ることができます。これまでのクルーズでは、イルカやアジの群れを見ることもできたそうです。

 船内では、おもちゃ美術館のスタッフが、窓から見える山々や海の様子を教えてくれます。青海島の山々は、広葉樹が多いこと、そのため秋になると紅葉を楽しめることなどをやさしく語ります。そして、山々の森から栄養分が流れつくことにより、海の豊かさが生み出される、つまり「森は海の恋人なのだ」とも伝えています。

 船の上で、木のぬくもりに囲まれ、波に揺られながら耳を傾ける山と海の物語は、きっと子どもたちの心に長く残る思い出になるでしょう。このようなクルーズ船の体験に魅了され、2度、3度とリピーターになる来館者も少なくないそうです。海の上の木育体験は、他のおもちゃ美術館にはない独自のプログラムとなっています。

 

木の多様性から地域の森の魅力を知る

 長門おもちゃ美術館の内装には、スギ・ヒノキといった針葉樹だけでなく、市内の森に多い広葉樹も活用されています。館内の床にはエリアごとにシイの木・スギ・ヒノキの三つの樹種を使用。エントランスには心地よい香りでお出迎えするヒノキが、赤ちゃん専用の部屋にはやわらかいスギが、そしてメインのひろばにはシイの木が、それぞれ目的にあわせて用いられ、質感の違いも楽しむことができます。

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長門産の木材を館内の床にもふんだんに活用

 

 さらに、館内のエリアを緩やかに隔てる約300本の円柱は、シイの木をはじめとした、ナラ、センダン、ケヤキなどの広葉樹を含む11種の樹種で構成されています。これらの樹種の使用比率は、実際に市内の森林における樹種の分布と同じ割合となっています。

 このようなデザインは一見しただけではわかりませんが、館内を案内するおもちゃ学芸員(ボランティアのスタッフ)が、遊び方とともに、そっと来館者に教えてくれます。こうしたおもちゃ学芸員の語りかけによって、市内の森にシイの木が多いことを初めて知ったり、スギやヒノキの香りや手触りの違いなどを感じたりと、来館者は地域の木材や森のことを知るきっかけになっています。

 長門おもちゃ美術館は、遊びや様々な体験を通して、木育や地域の自然の豊かさを感じるきっかけを生み出しています。まさに木育推進拠点としての役割を果たしている様子がそこかしこからうかがえます。

 (東京おもちゃ美術館 吉原裕美)

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