全国に広がるおもちゃ美術館と木育 福岡おもちゃ美術館②
前回は、福岡おもちゃ美術館の館内で使われている福岡県産ヒノキとスギについてお話ししました。今回はスギやヒノキとは色や模様や堅さが違う特徴のセンダン、クスノキを取り上げます。
成長の早いセンダン
子どもたちが毎日、積み木を楽しむ「積み木ステージ」の床にはセンダンを使っています。センダンは見た目も表面の堅さもケヤキに似て、積み木だけでなくコマ回しに使っても床に傷が目立ちません。また、センダンは成長が早く、苗で植えてから約20年で材料として使えるようになるそうです。温暖な地域に育つケヤキによく似ていて、日本では四国や九州・沖縄に分布します。
福岡おもちゃ美術館の遊びコーナーの道具や展示テーブル、いすなどは、地元における家具の産地、大川市の家具職人たちのグループ「OKAWA FACTORIA」とのコラボでつくりました。メンバーは、センダンの植樹イベントにも取り組み、家具の材料として活用することにとても力を入れています。
「シンボルツリー」はクスノキ
さて、都会型の「三井ショッピングモールららぽーと福岡」には、施設の中に芝生や花壇はあっても樹木はほとんどありません。このため、福岡おもちゃ美術館のエントランス前に、私たちが「シンボルツリー」と呼ぶ大きなクスノキ1本が、施設でほぼ唯一の樹木です。その木が1本あることで、どれだけ心が癒やされることでしょう。
シンボルツリー
先日、館内で開催した木育講座のワークショップとして、受講生と一緒に舞い落ちたクスノキの葉っぱを拾い、手でぎゅっと握りつぶして香りを嗅ぎました。防虫剤の樟脳(しょうのう)の香りが強くします。受講生からは「どこか懐かしい香りがする」「化学物質の樟脳とは違って繰り返し嗅ぎたくなる」「都会の中なのに一瞬で自然に触れた気がして不思議に感じた」といった声が聞かれました。
実は、館内にある「お茶室」の床の間にはクスノキを敷いています。施工した業者の方からは「床の間のクスノキが一番高価」だと言われましたが、とても美しく目の細かいクスノキが使われています。子どもたちがお茶室でかるた遊びやままごと遊びをする中、一緒にいるおもちゃ学芸員が「この床の木はクスノキだよ、触ってみてごらん」と伝えると、子どもたちはすぐに床をなでて、「すべすべ」「白っぽいね」などと感想をもらします。
お茶室の中から顔を上げて窓の外を見ると、シンボルツリーのクスノキがちょうど目の前に見えるのです。「あれが同じクスノキだよ。材木になる前の生きているクスノキはあんな姿なんだよ」とおもちゃ学芸員が教えてくれます。都会で生活をしていると、何げなく使っている木製品が実際に立っている木だった、ということさえ知らない子もいます。
山林や自然とは切り離された生活を送っている子どもたちが、実際に木に触れて香りを感じること、いろいろな特徴ある木製品や床や壁材に触れて興味を持つこと、生きている木が加工されて生活で使われ続けていることを知ること━━。遊びながらそんな“気づき”が得られることがとても大切だと考えています。
福岡おもちゃ美術館で、都会の中の小さな自然を生かしながら、そしてまた、伝え手であるボランティアスタッフ「おもちゃ学芸員」の力を借りながら、五感や遊びの力を通して「木」を身近に感じてほしいと願っています。ぜひご家族で遊びにいらしてください。
(福岡おもちゃ美術館 館長 石井今日子)