木育とおもちゃ美術館

全国に広がるおもちゃ美術館と木育 福岡おもちゃ美術館①

11%e6%9c%88%e2%91%a0%ef%bc%89%e5%86%99%e7%9c%9f%ef%bc%91%e3%80%80%e7%a6%8f%e5%b2%a1%e3%81%8a%e3%82%82%e3%81%a1%e3%82%83%e7%be%8e%e8%a1%93%e9%a4%a8%e3%82%a4%e3%83%a1%e3%83%bc%e3%82%b8%e5%86%99%e7%9c%9f

今春にオープンした福岡おもちゃ美術館=写真はいずれも同館提供

 

 2022年4月にオープンした福岡おもちゃ美術館は、福岡市博多区の大型ショッピングモール「ららぽーと福岡」の中にあります。他の“姉妹おもちゃ美術館”と同様、「木育推進」「多世代交流」をテーマに運営しており、全国の姉妹館の中で最も広い1300平方メートルの広さ、320人のボランティアスタッフ「おもちゃ学芸員」を擁する大きなおもちゃ美術館です。館内で使われる床材や什器のほとんどが福岡県産材で、主にヒノキ、スギ、センダンの三つの樹種が使われています。

 2回にわたり「木育」の側面から福岡おもちゃ美術館を紹介させていただきます。

 

福岡県朝倉市産の100年ヒノキの床

 エントランスに入った瞬間から、お客様の「木の香りがする」という声が聞こえてきます。入館後は「足が気持ちいい」「木に包まれる感じに圧倒される」「森の中に入ったような温かみを感じる」と口々に話されます。そのまま進み、「おもちゃのまち」を経て一番奥の「おもちゃのもり」まで“100年ヒノキ”の床材が使われています。

 オープン1年余り前の21年2月、同県朝倉市の山を見に行きました。おもちゃ美術館の床に敷くフローリングのための20本のヒノキを選ばせていただくためです。

 市内で木材事業を手がける「アサモク」の山はたいへん手入れが行き届いており、日の光が差し込み、下草はきれいに刈られた明るい印象の山林です。どの木も樹齢100年超え、18メートル以上の高さで、幹の太さは大人の私でも両手で抱えきれないほどでした。これらのヒノキは、多田啓社長の曽祖父が植えられた木だそうです。

11%e6%9c%88%e2%91%a1%ef%bc%89%e5%86%99%e7%9c%9f2%e3%80%80-%e6%9c%9d%e5%80%89%e5%b8%82%e3%81%ae%e5%b1%b1%e6%9e%97-%e3%82%b3%e3%83%94%e3%83%bc

福岡県朝倉市に広がる山林

 

 通常、材木は4メートルに製材されますが、この材は1本の木から4メートルの材木が4本取れました。ヒノキ20本分なので、80本の材木を床に使った計算です。

 また、材木には節が多かったり少なかったりしますが、おもちゃ美術館には節がほとんどない美しいものを選んで、エントランスに近い場所から順に敷いてあります。奥に行くにつれて節が増えてきます。それもまた、床の模様をにぎやかな印象にしてくれます。子どもたちが木の節を探しては指で押さえながら奥の部屋に進んでいく姿は、まるでヘンゼルとグレーテルが森の中に迷い込んでいく姿のようにも見えます。

 「うちの山の材をこんなに美しく使い、たくさんの方の目に触れる使われ方をしてくれて、木を植えた曽祖父も天国で満足しているだろう」。おもちゃ美術館が完成した後、多田社長が小学生のお子さんを連れて来館されました。「通常、出荷したら誰にどんな使い方をされたかどうかは山主にはわからない。おもちゃ美術館に使われたことで次世代の子どもたちに、森の木が丸太となり、製材されて実際に使われている一連の流れをすべて見せることができて、本当にうれしい」と語ってくださいました。

 改めて、林業は100年単位の時間の流れを持つことに思いをはせ、こんな長い年月と手のかかった豊かな材を使った施設を誇りにし、大切にしながら、子どもたちに伝えていきたいと思いました。

 

「赤ちゃん木育ひろば」にスギを使った理由

 0~2歳の赤ちゃん親子を対象にした「赤ちゃん木育ひろば」の床には厚さ3センチのスギ材が使われています。こちらもヒノキと同じく「朝倉産」です。他の場所の床に使ったヒノキではなくあえてこの部屋にスギを使ったことには理由があります。

 11年に東京おもちゃ美術館に初めて「赤ちゃん木育ひろば」をつくりました。大分県の作家、有馬晋平さんにアート作品の「スギコダマ」をすべり台やトンネルといった遊具にしていただき、広場のシンボルとしました。

11%e6%9c%88%e2%91%a2%ef%bc%89%e5%86%99%e7%9c%9f3-%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e3%81%8a%e3%82%82%e3%81%a1%e3%82%83%e7%be%8e%e8%a1%93%e9%a4%a8-%e8%b5%a4%e3%81%a1%e3%82%83%e3%82%93%e6%9c%a8%e8%82%b2%e3%81%b2

東京おもちゃ美術館の「赤ちゃん木育ひろば」

 

 スギにこだわるなら、いっそのこと「遊具以外もすべてスギでつくろう」ということになり、全国10カ所からスギを集めてテーブルや椅子、おもちゃの展示棚、そして床をつくりました。

 ヒノキも比較的やわらかい素材ですが、スギはさらに水分と空気がたくさん含まれているためヒノキよりもやわらかいのです。子育て支援の目的で設けた「赤ちゃん木育ひろば」では、赤ちゃんがお座りやハイハイ、よちよち歩きをして転ぶこともよくあります。けれども、スギは衝撃を吸収する効果があり、多少の高さから転んでも大けがにはなりにくいです。

 また、床に直接座っても体温が奪われにくいのです。赤ちゃんも親も、どっかりと腰をすえて遊びに集中する姿が見られます。スギの香りのリラックス効果も感じられます。ヒノキの「心が高揚する」「活性化する」ような香りとは少し違い、心がほんわかする落ち着く香りがするのです。

 こうした東京での約10年にわたる「赤ちゃん木育ひろば」の子育て支援の実践を活かし、福岡おもちゃ美術館では広さが東京の約1.5倍となる木育ひろばにしました。東京にはない「ハイハイコーナー」「さげもんドーム」も新たにつくり、福岡オリジナルで赤ちゃんの子育てを応援していきます。

11%e6%9c%88%e2%91%a3%ef%bc%89%e5%86%99%e7%9c%9f4%e3%80%80%e7%a6%8f%e5%b2%a1%e3%81%8a%e3%82%82%e3%81%a1%e3%82%83%e7%be%8e%e8%a1%93%e9%a4%a8-%e8%b5%a4%e3%81%a1%e3%82%83%e3%82%93%e6%9c%a8%e8%82%b2

福岡おもちゃ美術館の「赤ちゃん木育ひろば」

 

 (福岡おもちゃ美術館 館長 石井今日子)

 

PAGE TOP