全国に広がるおもちゃ美術館と木育 讃岐おもちゃ美術館②
遊びを通して木の文化を伝える
地域の伝統工芸などを生かした「讃岐おもちゃ美術館」の取り組みを紹介します。
一つは、香川県漆芸研究所の協力のもとつくった「漆塗りの滑り台」です。このような遊具づくりは初めての試みでした。
香川県の伝統的工芸品の一つとして指定されている「香川漆器」は、独自の技法で200年近くの歴史があり、箸や椀(わん)などの生活品から家具、美術工芸品に至るまで様々な漆器があります。かつては、日常に溶け込んだ木製品でした。しかしながら、近年は漆器以外の安価な製品が出回り、漆器を持たない家庭も多いのではないでしょうか。高級品で、扱いづらい――。そのようなイメージのある漆器に「遊びを通して触れてほしい」という思いで、滑り台をつくりました。
滑り台は、「蒟醤(きんま)」「存清(ぞんせい)」「彫漆(ちょうしつ)」という香川漆器の三つの技法で装飾されています。例えば、滑る面には、色漆を塗り重ねて、文様を浮き彫りにする彫漆が用いられています。現在の表面は黒一色ですが、たくさんの子どもたちが遊んでくれることで、年月とともに表面が削られていくはずです。何年先になるかわかりませんが、きれいな色漆の文様が浮かび上がることが楽しみでなりません。
香川らしく、小豆島の醤油桶(しょうゆおけ)を使った「お茶室コーナー」もあります。老舗の醤油蔵が立ち並ぶ小豆島では、木桶による醸造技術が守られています。2021年には「讃岐の醤油醸造技術」が国内初の登録無形民俗文化財として登録されました。
お茶室には、「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げるなど、小豆島の木桶の醤油づくりを先導するヤマロク醤油が協力してくれました。漆の文化と同様、様々な工業製品や製造方法の普及で衰退しつつある木桶を知ってほしい、と共感していただきました。お茶室やごっこ遊びの空間で、木桶を身近に感じられます。
さらには、讃岐かがり手まりを使った「盆栽」のような遊具。「BONSAI」として、海外のファンも多い盆栽ですが、なかでも人気の高い松盆栽は高松市が全国最大の生産地であり、全国の約8割を占めています。ただし、認知度は低く、地元でもあまり知られていないそうです。
讃岐おもちゃ美術館は、高松らしいこの文化に注目しました。本物の盆栽は手入れが難しいことから、試行錯誤の末に生まれたのが、手まりで遊べる盆栽のおもちゃです。
松盆栽の葉の部分は、濃淡のある緑色の手まりが、マグネットでくっつく仕組みになっています。讃岐かがり手まりは伝統的工芸品の一つでもあり、草木染で染めた木綿の糸を巻き付けた手まりは、色合いや手触りがとてもやさしいものです。
このように、地域の伝統工芸を生かした展示や遊具がふんだんにあります。遊びを通して、子どもたちが伝統工芸を当たり前のように触れ、興味を持ってもらえたらうれしいです。
(東京おもちゃ美術館 吉原裕美)