全国に広がるおもちゃ美術館と木育 讃岐おもちゃ美術館①
子育て支援NPOが取り組む木育
2022年4月25日、徳島県に次ぎ四国地方で2館目となる「讃岐おもちゃ美術館」が高松市にオープンしました。讃岐おもちゃ美術館は“再開発の成功事例”としても全国的に有名な高松丸亀町商店街振興組合の協力のもと、香川県を中心に20年以上子育て支援活動に取り組んできた団体が、公的資金に頼らずに開設した民設民営のおもちゃ美術館です。
運営団体である「認定NPO法人わははネット」は、子育て情報誌の発行や子育て広場の運営など、様々な支援活動に取り組んできましたが、地域の子どもたちがふるさとの魅力に触れ、体験できる場づくりが必要と感じ、おもちゃ美術館設立に向けて動き出しました。開館前に催した木のおもちゃの体験イベント「木育キャラバン」では、木のおもちゃを囲んで多世代で遊ぶ様子が多く見られました。これまで出会わなかった人たちが集い、団体が目指す「すべての人が子育てに関心をもつ社会」の実現につながると感じたそうです。
そんな思いでつくられた讃岐おもちゃ美術館には、子どもたちのためにと、職人さんや伝統工芸士など地域の人が紡ぐ、様々な木の魅力、木の文化にあふれています。
入館後、最初のエリア「さぬきのもりひろば」の正面で出迎えるのは、香川県まんのう町から切り出された樹齢58年のヒノキのシンボルツリーです。このヒノキの端材で“ヒノキのバースデーケーキ”もつくられました。これはお誕生日を迎えた来館者限定で、木のケーキに、木のロウソクが立てられます。シンボルツリーが半世紀超の年輪に刻んだように、誕生日という特別な日に来館されたお客様の成長をみんなでお祝いするという、木をつかった温かいおもてなしです。
館内をさらに進むと、17種の広葉樹からなる「さぬきのこだち」が広がります。同県東かがわ市から伐採された36本の樹木は、なるべく自然のままの姿を残そうと、樹皮付きのまま展示しています。
このこだちには、全国のおもちゃ美術館で大人気の「ひっつきむし」が隠れています。1本1本に、樹種の名前が刻印されたプレートが付いていて、ひっつきむしを探したり戻したりと遊ぶことで、森には様々な樹種があることを感じてもらいたいとの願いが込められています。樹皮付きだからこそ、「これはクヌギだね。昔、カブトムシをとったときに覚えたよ」と子どものころの森での思い出話が聞こえてくることも。やがては、おもちゃ美術館で初めて出合った樹種と、森の中で出合う経験をする子どもたちが増えるのではと想像がふくらみます。
地域の木材から自然の豊かさ、多様性を伝える
これらの木々が伐採されたのは、開館の半年前の秋。スタッフらがその現場に立ち会い、木々が育っていた環境や、職人の丁寧な仕事ぶりを目の当たりにしました。伐採を初めて見たというスタッフは、その音や香りとともに、職人の作業一つ一つの技術の高さや、木をいたわる思いに感激。その思いを「おもちゃ学芸員」と呼ばれるボランティアやお客様に伝えているそうです。そして、これらの木々が“第二の人生”としておもちゃ美術館で子どもたちの声に囲まれ、長く愛されるよう、お客様と一緒に大切にしていきたいと感じたそうです。
もう一つ、香川らしい木として「オリーブの木」を活用した積み木のコーナーがつくられました。小豆島の特産品でもあるオリーブオイル。そもそもオリーブの木は堅く、加工には難しいとされるそうですが、地元の職人が収穫後の木を使って積み木やテーブルをつくってくださいました。積み木で遊んでいるお客様に、オリーブの木でできていることを伝えると、その木目の美しさや、肌触りに驚かれる方が少なくありません。
また、県産ヒノキでつくられたボールを敷き詰めた「まめまめプール」には、地元で人気のゆるキャラ「うどん脳」くんが描かれたボールや、どんぐりが混ざっています。ヒノキの香りがたっぷり漂うプールの中で、お目当てのものを探したり、全身で木の心地よさを感じるお客様が多く見られます。
その他にも、多樹種の六角形の木材を張り合わせた床や、多樹種の積み木などがあり、遊びを通してたくさんの種類の木に触れられる仕掛けがちりばめられています。そこには、木の種類の多様性を感じるとともに、いろいろな人が一緒になって私たちの社会をつくっている、その多様性を感じてほしいという願いが込められています。
子育て支援団体ならではの視点で、木育を採り入れていると感じました。このように、自然の多様性から社会の多様性を伝えるという視点も、新たな木育の価値の一つかもしれません。
次回は、遊びを通して、香川の木の文化を伝えるコンテンツを紹介します。
(東京おもちゃ美術館 吉原裕美)