全国に広がるおもちゃ美術館と木育 檜原森のおもちゃ美術館②
廃校がおもちゃ美術館に生まれ変わる
檜原村でのおもちゃ美術館構想の実現にあたっては、地域に根付いた木育とともに、東京都でありながら豊かな森林環境の中にある村だからこそできる「地域外にも発信する木育」が必要と考えていました。木材産業・木工業とつながる木育のために「おもちゃ工房」を併設できる立地であること、東京都心の住民など多くの地域外の方も訪れる観光スポットとして十分に機能するだけの広さを確保できること━━など諸条件を勘案し、村内のいくつかの候補地の中から、小沢地区が選ばれました。
おもちゃ美術館の建設地はもともと北檜原小学校で、地域の子どもたちが学び遊んだ記憶が刻まれた場所でした。同校は、1984年に廃校となった後、渋谷区に貸し出され「渋谷区自然の家」として活用されていましたが、2017年に老朽化に伴い閉鎖。耐震診断などの結果を受けて19年に校舎は解体されました。
地元にとって校舎解体は苦しい決定でしたが、お別れの会のセレモニーをとりおこない、前向きに「地域の活性化のためにできることをしよう」と考えました。それが後に、住民有志がゼロから立ち上げた「檜原森のおもちゃ美術館の運営法人(特定非営利活動法人 東京さとやま木香會)」です。
地元木材を活用 村の景色を「再現」
檜原村は、森林率93%、70年ほど前に植えられたスギ・ヒノキ・サワラなどの針葉樹が多くあります。おもちゃ美術館を建てるときには、当然ながら、檜原村の木材が多く使われました。村役場の協力のもと、村の木材産業協同組合が伐採・製材・乾燥などの工程を経て木材を供給。山を背にした建築物が完成しました。
館内のおもちゃと遊びのコンテンツにも、檜原村の地域や木の文化を伝えられるように工夫を凝らしています。入館した先に広がるのは、地元の景色を再現したような空間。山があり、森があり、川が流れ、地域で人が生活している。すべてを村の木で表現しました。
「檜原村トイビレッジ構想」を体現するのは、隣接するおもちゃ工房でつくられたおもちゃで遊べるゾーン。なかでも、木のおもちゃ「アドベンチャートラックLOGGY」は、細丸太の輪切りがそのままタイヤになっているため、山道を走るようにゴツゴツと進みます。伐採された木を運んでいく林業の仕事のワンシーンを想像できます。
木のおもちゃには、村の名産品のゆずやジャガイモをモチーフにしたものもあり、ゆずのシンボルツリーで“ゆず狩りごっこ”を楽しめます。旧小学校の校庭にあったイチョウの木は、おもちゃ美術館の中で似たような形で“復活”しました。
人口2200人ほどの小さな村ですが、21年11月3日のグランドオープン以降、約半年間で延べ2万5千人が訪れています。村の木材を“五感”で体験し、子どもから高齢者まで楽しみ交流できる空間は、これまであまり「木」になじみのなかった人たちが「木の良さを知り、木に親しむ」ことにつながっています。
木の文化、地域の文化を伝えていくのは、空間だけではなく、スタッフやおもちゃ学芸員といった「人」です。この空間で、どのように木育が広がっているのか、次回は、人材育成と屋内・屋外をつなぐ遊びの観点からお届けしたいと思います。
(東京おもちゃ美術館 高野祥代)
プロモーションビデオもご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=hYHgbP7NT1Y