全国に広がるおもちゃ美術館と木育 檜原森のおもちゃ美術館①
徳島県、静岡県からバトンを受け取り、今回から東京都檜原村の話を3回にわたってお届けします。今回のテーマは「檜原森のおもちゃ美術館」がなぜ誕生することになったのか。そこには、豊かな森林資源で地域を活気づけようとする東京都西端の「小さな村」の「大きな挑戦」がありました。
村ぐるみで推進「檜原村トイビレッジ構想」
いまから約8年前の2014年、檜原村は「村の子どもは、村の木で育てよう」と、木育推進を掲げるウッドスタート宣言をしました。きっかけとなったのは、村内の林業会社の代表が村長へ提案した「檜原村トイビレッジ構想」。村の面積の93%を占める豊かな森林資源を生かして木材産業、木工業を活性化させ、おもちゃ美術館をつくって観光業とも連携して地域外から人を呼び込む。それはまさに「日本一有名な木のおもちゃの村にしよう」というビジョンです。
提案を受けた村長は、東京おもちゃ美術館へ足を運び、赤ちゃんから高齢者までが木の空間の中で心地よく楽しそうに過ごす様子を目の当たりにしました。「子どものときから木に触れる環境をつくることで、木のよさが見直される」と考え、ウッドスタート宣言をするとともに、「檜原村トイビレッジ構想」を村の方針として示しました。
構想は、木のおもちゃをつくる「おもちゃ工房」と、こうしたおもちゃにあふれ、木のぬくもりを“五感”で体験できる拠点「おもちゃ美術館」を一体で整備することでした。これによって、村内の林業、製材業、木工業、観光業、福祉といったさまざまな業種や分野が垣根を越えてつながり、村全体で木育の推進をめざしています。
そして、19年におもちゃ工房の運営が始まり、21年には檜原森のおもちゃ美術館が開館しました。
人びとを結びつける“余白”ある拠点
木のおもちゃに光が当たったのにはいくつか理由がありますが、最大の理由は「日本は森林大国であるのに、子どもたちが生まれて初めて手にとって遊ぶ木製おもちゃは大半が海外製」という現状を打開したいとの思いにありました。
東京都においても、豊かな森林資源を持つ地域はあるのに、木のおもちゃとして多くの子どもへ届ける手立てがありませんでした。このため、檜原村でオリジナルの木のおもちゃを開発するところからスタートしました。
開発時に大切にしたコンセプトは「1本の木をまるごと使い切ること」。これまでの木材産業では活用されにくかった枝葉なども、子どもにとっては素晴らしい“宝物”になります。例えば、節のない木に育てるために打ち落とされる枝の皮をむいて、長さを切りそろえたおもちゃ「ウチエダ」。遊ぶのに少し工夫が必要な積み木であり、拍子木のように音を奏でられる楽器でもあり、太鼓のバチに見立てて遊んでも楽しめます。もちろん、シンプルに1本1本、じっくり観察して木を五感で体験することもできます。
既成概念にとらわれずに開発されたおもちゃは、子どもの自由な発想を育むものとなりました。
この東京の森の恵みから生まれた、自然のままで不ぞろいな形の新しいスタイルの木のおもちゃ「Tokyo Tree Wood」も含めて、檜原村オリジナルの品がおもちゃ工房でつくられ、おもちゃ美術館でも楽しめる流れができました。
「木が好きな人を育てる活動」を川上から川下までゆるやかにつなげ、広げていくためには、豊かな“余白”が必要だと考えています。そして、おもちゃ美術館は“関わる余白”“つながる余白”を持っているからこそ、さまざまな人を引き寄せ、それぞれを結びつける場となりつつあります。
檜原村の構想がいよいよ具体的に動き始めました。どのように進んでいるのかについては、次回お届けします。
(東京おもちゃ美術館 高野祥代)