全国に広がるおもちゃ美術館と木育 徳島木のおもちゃ美術館①
徳島県産材を“五感”で楽しむことができる場所
2021年10月24日。素晴らしい秋晴れの下、日本初の「県立」おもちゃ美術館として「徳島木のおもちゃ美術館」がグランドオープンしました。そのオープニングセレモニーでの徳島県の飯泉嘉門知事のスピーチは、さきにノーベル物理学賞の受賞が決まった真鍋淑郎氏の話から始まりました。
「真鍋氏は隣の愛媛県出身で、世界に先駆けて、二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルをつくられました。そして気候の分野で物理学賞が選ばれたのは、長いノーベル賞の歴史でも初めてのことだそうです」
ノーベル賞の話から始まるとは思ってもいませんでしたが、しかし飯泉知事の慧眼(けい・がん)に驚きつつ、「徳島木のおもちゃ美術館」の設立目的の一端を、見事に言い当てたこのスピーチに納得しきりでした。
言わずもがなですが、森林は二酸化炭素を固定し、地球温暖化の防止にも大きな役割を担っています。その森林が今、大変な危機に直面しています。果たして森林から遠く離れた暮らしの中で、私たちは何ができるのか。それを体験的に考え、学び、感じることが、まさしくこのおもちゃ美術館の目的のひとつなのです。
今回の美術館でまず目を奪われるのは、エントランスの受付カウンター。樹齢300年~400年の巨木をイメージしたもので、徳島県産スギの105ミリの角材を264本組み合わせました。
「鎮守の杜」のトンネルをくぐり抜けると、そこは「あさん農村舞台」。ふだんは「積み木ひろば」になり、徳島県産材を活用した「すぎのこ積み木」です。閉館間際まで高く高く、子どもたちの背よりも高く、積み上げ遊びが続きます。このコーナーには、誕生祝い品である那賀町の「ゆずつみき」、三好市の「かずら」など県内の地域材を活用したおもちゃが置かれています。
さらに進むと、豪快な「里山ひろば」。樫原の棚田から吉野川、そして徳島市のシンボルである眉山までもが、県産材で表現されています。子どもたちは棚田から滑り降りたり、眉山に登ったりして動きまわっています。そして“四国三郎”と呼ばれた吉野川は暴れ川でもあり、よく氾濫(はん・らん)します。美術館では、水に見立てた木の卵があふれ出す仕掛けになっています。その氾濫をくい止めたり、元に戻したりするのも遊びです。
その先を進むと、立ち木が現れます。よーく見ると、立ち木の幹にある穴には、虫たちが……。「ひっつき虫のもり」です。子どもたちは、長い時間、昆虫採集にいそしみます。
「グッド・トイ」のひろばには、日本だけでなく世界のグッド・トイがありますが、最も目を引くのは「クミノ」。クミノはたったひとつのかたち。日本の木組みの技術から生まれた二つの溝が刻まれた柱状のピースです。組み合わせることで、動物や花、昆虫、風車、飛行機など、さまざまなものが作れます。クミノも県産材でできています。
美馬市脇町の「うだつのまち」を再現した建物には、徳島県内の職人がつくった「ジスイズヴィークル」「てるぺん・不思議な椅子」の小屋があります。ここも大人気のコーナーです。とくに「てるぺん」は、椅子の形をしたシンプルなおもちゃですが、同県上勝町のスギを使用し、積み方や遊び方は、まさに無限大。遊びを通して思考力、想像力、集中力が身につくだけでなく、県内の森林にも思いをはせることができます。
このように、おもちゃだけでなく遊具や器具に至るまで、ほとんどが県産材によるものです。まずは木目の美しさを見て、めでる。木のやさしい音に耳をそばだてる。空間に漂う木の香りにホッとし、ずっと持っていたくなるような感触に癒やされる。赤ちゃんたちは木のおもちゃをなめてその味を確かめる。そんなことを通じて、木の良さを全身で感じられるのが、この徳島木のおもちゃ美術館なのです。
(東京おもちゃ美術館副館長 馬場清)