里山再生と森林業の可能性:森林墓地(2)スイスにおける森林埋葬(1)
日本で樹木葬と称している墓地の多くは森林ではない所にあるが、実際に里山再生を行いながら整備した森林を墓地して活用している稀有な事例である、岩手県の知勝院の取り組みを前回紹介した。ヨーロッパ地域においても、森林ではなく樹木を単木的に植栽して造成した園地を活用した墓地を森林墓地(Forest Cemetery)と称している箇所も多く存在している。これらの森林外の墓地と実際に森林を墓地として活用している箇所とを区別するため、後者は埋葬森林(Burial Forest)、またその行為は森林埋葬(Forest Burial)と称される1)。本稿では、主としてスイスにおける埋葬森林/森林埋葬の状況について紹介する。
ヨーロッパ地域では、20世紀の始め頃までは火葬は極めて稀であったが、社会的・宗教的考え方の変化や墓地の土地不足・土壌の質の低下などの理由から、20世紀の終わりにかけて一貫して増加し、今日のスイスでは亡くなる人の約74.5%が火葬されているという。スイスでは隣接国のような墓地や埋葬の義務はなく、地下水保全が必要な箇所以外では遺灰の散布の制限もない。そして、近年では伝統的な墓地以外の自然で自由な形態の埋葬を希望する人が増えてきている。森林埋葬では、森林の荘厳性に加えて、樹木は遺灰を養分として吸収するため、永遠や生命サイクルのシンボルと考えられている。また、樹木の根元に埋葬することは他には代えられない個人的な故人の記憶を提供し、無神論者にとって非常に魅力的であるとされる。

家族と契約中の埋葬樹(骨壺が埋められて保護されている)に立つフォレスター。フォレスターは樹木の手入れや管理、契約者との意思疎通を任されている(写真提供:Andreas Bernasconi)

レンツバーグ地域の市民の森の状況について説明する地域森林企業レンツィアの責任者。3ヘクタールほどの埋葬森林がこの区域に含まれている(写真提供:Andreas Bernasconi)
森林埋葬においては、森林の外で行われる伝統的な埋葬とは大きく異なる点がある。まず、法的には埋葬が行われる森林は土地利用上森林のままであるため、全ての森林への立ち入りが認められているスイスでは、埋葬森林にも不特定多数の人が散策のために森に入る。このため、墓地の区域は目立たないように配慮され、墓石の設置や花の飾りつけ、歩道、ベンチ、シェルターなどの設置は禁止され、小さな金属性の番号札だけが樹木に取り付けられるなど様々な制約が課せられる。多くの場合、駐車場から近い数ヘクタールの歩きやすい森林が選ばれる。森林内の一部の樹木のみを埋葬に利用し他の区域では一般的な森林経営が行われている場合やほとんど全ての樹木を埋葬に利用している場合など多様な形態がある。
埋葬方式としては火葬のみであり、生分解性の骨壺を埋めるか、またはより一般的な骨壺なしで遺灰を直接樹の根元に注ぎこむ方法がとられる。埋葬森林は通常リースで行われ、実施主体としては市町村、森林所有者、民間企業などがあり、利用者は埋葬樹を一定期間有償で利用することとなる。
埋葬森林のメリットとしては、墓地の維持管理が不要であり、ペットも含めて家族全員を一本の樹に埋葬できることがある。そして、森林所有者にとって重要な点は、森林に埋葬するという生態系サービスを金銭化して追加的収入とする森林業への展開を図る可能性があることである。
(上智大学大学院地球環境学研究科客員教授 柴田晋吾)
[参考文献]
1)Pan Bern AG. 2017. Bestattungswälder in der Schweiz

