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森の散策によって生まれるポジティブな感情と健康増進効果

写真 ソフィアの森における散策実験の様子(2021年11月撮影、長野県軽井沢町)

 内閣府の調査によれば、人々が森林内で行いたいことは「心身の健康づくりのための散策やウォーキング」が70%と圧倒的に多かった(「森林と生活に関する世論調査、2024年」)。散策によってもしポジティブな感情が生まれていることが分かれば、そのことが実際に心身の健康増進にプラスの効果を生んでいると言えるのではないかと考え、人は森林内の散策によってどのような感情を持つかを調べてみることとした。上智大学が教育研究の目的で国有林と協定を締結している長野県軽井沢町にある「ソフィアの森」において実際に散策実験を行ってみた。

 「ソフィアの森」は、カラマツの植林木とコナラやアカマツなどの郷土樹種からなる森林で、林内にトレイルを整備している。春から秋の4回の散策実験の公募に応じてくださった方々に、この森を散策してもらい、歩きながら生じた感情(ラッセルの感情の円環モデルにある27種の感情)のうちの該当するものすべて、および感情を動かした要素を散策票に記入してもらうとともに、終了後にアンケートにも回答してもらった。

 この結果、延べ74人、587件の散策中の感情のデータを得た。これらを不快か快かの水平軸と覚醒か眠気かの垂直軸の空間に頻度に基づく円の大きさで示したのが図1である。

図1 ソフィアの森における散策実験で散策中に生じた感情の頻度

 「興奮した」「わくわくした」「驚いた」など覚醒と快の象限が最も多く、ついで「嬉しい」「のどかな」など眠気と快の象限が多くなった。なお、この結果と散策後の感情のデータはほぼ同様な結果となったが、散策中では「警戒した」などの不快な感情も一部であったが、散策後には不快は皆無であった。また、散策中に感情を動かした要素としては、多い順に樹木、キノコ、花や実、植物、雰囲気、蝶や昆虫、野生生物や鳥、景観、その他、水辺や湿地、管理、鉱物となった(図2)。ちなみに、今回の被験者は軽井沢町在住者など長野県内在住者が多くを占めており、しばしば森林を訪れる自然愛好家が多かった。

図2 ソフィアの森の散策実験で感情を動かした要素の頻度

 限られた実験結果であるが、森の散策が「興奮した」、「わくわくした」、「驚いた」をはじめとするポジティブな感情を掻き立て、森のなかでの「発見」がそれらの誘因となったことが分かった。この結果から、森林内の散策においては、樹木やキノコ、花や実、昆虫、景観など各自の関心の対象についての様々な「発見」がポジティブな感情を生み、このことが他の要因(運動効果や森林の発する揮発成分など)とともに心身の健康増進効果を生むという仮説を提起したい
 (上智大学客員教授、柴田晋吾)

 参考文献
James A Russell. 1980. A Circumplex Model of Affect. Journal of Personality and Social Psychology 39(6):1161-1178. DOI:10.1037/h0077714
柴田晋吾、柘植隆宏、高橋卓也. 2022. 森林散策による感情発現とITによるガイドの効果について―「ソフィアの森」における実験結果から 日本森林学会大会口頭報告

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