ヨーロッパにおける森林ビジネスの広がり

訓練された犬によるトリュフの探索(イタリア、2019年11月撮影)
日本では近年、観光・レクリエーション利用や健康・教育など他産業分野と重なる目的で森林空間利用を行う森林サービス産業が注目を集めているが、欧州でも同様な動きがある。欧州では森林の多目的利用が進んでおり、生態系としての森林管理をはじめ、健康やレクリエーション利用などを含めると、広義の森林セクターに関わる人々の数は拡大しているという見方がある(ECE/FAO,2018)。欧州では、これらの新たに出現してきている森林ビジネスのことを、革新的なグリーン・フォレスト・ジョブ(GFJ)と呼んでいる。
GFJの台頭の背景には、近年のライフスタイルの変化、文化的森林生態系サービスへの関心の高まり、人々の健康や自然への関心の高まりなどがある。本稿では、アンケートやワークショップに基づいてヨーロッパ地域における革新的なGFJの最新状況についてとりまとめたレポートの知見を中心に、欧州における日本の森林サービス産業に相当する動きについて紹介する。
森の仕事は、①木材生産など伝統的な林業の仕事、②自然再生や生物多様性保全など復元の仕事、および、③革新的なGFJに区分されている。革新的なGFJとは、森林の新たな産物やサービスに関する経済活動、森林セクター以外の教育、健康、ITなどと結びついた活動を指す。GFJは伝統的な森林セクター以外の分野、すなわち、健康、持続可能な観光、バイオエコノミー、教育などに関連していることが多いため、日本の森林サービス産業に相当するといえるであろう。
GFJは依然発展途上の考え方であり、まとまった知見がない段階である。しかし、多目的な森林管理と統合的なアプローチが革新的なGFJの誕生を支援しており、特に、文化的森林生態系サービスや食料・栄養に関連する仕事が伸びてきている。文化的森林生態系サービスに関連する仕事の例としては、森林エコ・セラピーガイド、森林文化解説者、森林墓地管理者、森林教育者、アドベンチャーパーク・フォレスターなどがある。森のようちえんや森林墓地、アドベンチャーパークなど従来はまれだった取り組みが増えているのである。
例えば、2009年頃のドイツでは森のようちえんが100カ所しかなかったが、2019年になると2,000カ所以上と20倍以上に増えている。また、スイスで最初のアドベンチャーパークができたのは2000年であるが、2020年時点では50カ所に増加している。また、2020年現在、スイスには、典型的な森のようちえんが600~800カ所、森林スクールが200~400カ所、その他の森林教育機関を含めると3,000~5,000カ所存在している。
イタリアでは、森林の多目的利用、収入の多様化、文化的森林生態系サービスの促進のために、アプリアおよびベネトの2地域において教育の森が設置されており、アプリア地域には30カ所の教育の森が設けられている。ドイツで最初の森林墓地ができたのは2001年であるが、2019年には170か所に増加している。また、スイスで最初の森林墓地ができたのは1998年であるが、2019年には100か所にもなっている。もっとも、森林墓地はいくつかの大企業が運営しているため、現状では森林所有者への便益の還元は限定的である。
このほか、健康を守るためのグリーンケアという考え方も出てきている。ケアは健康を守るために人々の世話をする、必要としているものを提供するという意味であり、グリーンケアとしては、森林によるケア、社会農業、都市グリーンケア、グリーンケア・ツーリズムなどがある。
一方、食料・栄養に関連する仕事の例としては、トリュフとキノコの生産管理、生態的栄養食料スペシャリストなどがある。イタリアでは、トリュフとキノコの生産管理に関連して1,400の新会社が設立され、10万人が関連業務に従事している。

EUが定めるPGI認証も受けているポルチーニの聖地:ボルゴターロの街の遠景(イタリア、2019年11月撮影)
以上述べたように、欧州地域では比較的急速なGFJの台頭が起こっているが、それにも関わらず①の伝統的な林業の仕事の減少が著しいことから、森林の仕事をトータルとしてみればいまだ減少している状況にある。
(東北農林専門職大学教授・森林業経営学科長/上智大学客員教授 柴田晋吾)
[参考文献]
Doimo, Ilaria; Steinberg, Vera; Vančo, Michal; Pettenella, Davide; Muehlberger, Dominik; Schuschnigg , Alois; Yegül, S. Serdar; da Silva, Emilin Joma (2024): Novel Green Forest Jobs in Pan-Europe, Bonn. p. 20