森の全方位ビジネス「森林業」の可能性(5) 日本の森林所有者の意識と取り組みについて
「森林業」を進めるためには、森林生態系サービスについての革新的な取り組みが必要になりますが、日本の森林所有者はどのような意識を持ち、どのような取り組みが進められているのでしょうか?本号では、このような視点から日本全国の森林所有者を対象にアンケートを実施した結果について紹介します。
表1は森林所有者のPES(生態系サービスへの支払い)や森林サービス産業の受け入れなどの実施状況について尋ねた結果です。この結果によれば、生態系サービスへの支払いを受けているものは、民間企業と組んだ事例などがあるものの、依然少数派です。しかしながら、PESに興味があるという方を含めると6割、7割以上になります。また、供給サービスである非木材森林産品(木材以外の森林産品)についてのビジネスは多岐にわたる取り組みがあり、大多数が関心を示しており、加工度の高い新規産品の開拓が期待されます。
森林サービス産業については、すでに多様な取り組みが実施、構想されており、「大いに期待」、と「期待している」を合わせると59%と多くの森林所有者が期待しています。また、森林サービス産業などのレクリエーション利用への開放の考え方を尋ねたところ、66%が開放に積極的でした。
一方、事故時の責任問題を懸念する意見が多くあり、この点をクリアするためには、アメリカの一部の州で実施されている無料開放者についての事故時の免責制度や、スコットランドなどで実施されている補助金給付と開放義務を結び付けるような制度、さらには、有料で開放する場合にも安心して開放が行える制度の構築を検討すべきだと考えます。
表2は、PES等による経営体当たりの年間収入を問うたものです。200万円以上を得ている活動としては、水源基金、バイオエネルギー、アジサイ園、キャンプ・コテージがあります。なお、バイクトレイルなどでの年間売り上げが2億円を超えている事例もあると聞いておりますが、今回の調査対象には含まれていません。これらの事例を見ると、多額の収入を得ている事例は多くないものの、多岐の活動を組み合わせることによって毎年の収入を得ていることが分かりました。
以上見てきたように、人々の健康や教育なども視座に入れる森の全方位ビジネス「森林業」という捉え方をすることによって、ビジネスとしての可能性を拡げることはもとより、森林・自然と人々との関係の回復、さらにはSDGsの実現をはじめとした環境と共生した社会づくりに大きく貢献することが期待できるでしょう。今後も、取り組み事例のさらなる分析などを続け、可能性を探りたいと思っています。
(東北農林専門職大学教授・森林業経営学科長 柴田晋吾)