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森の全方位ビジネス「森林業」の可能性 4 「林業」から「森林業」に脱皮するには?

森林レンタルビジネス・シシガミカンパニー(旧フォレンタ)のレンタル区画の一つ=岐阜県東白川村、2024年6月、筆者撮影

「森林業」に脱皮するための考え方
 どうしたら木材生産のみの「林業」から幅広い森林ビジネスである「森林業」に脱皮できるのであろうか? ズバリ、「木を見て、森を見て、そして人を見る」ことである1)。森の恵みを見つめ直すと価値化を図れるものがまだまだ眠っているはずである。

 従来、木材の価値があまりにも大きかったために、それ以外の産物は副産物と呼ばれていたが、これからの時代は着眼次第では副産物が主産物にもなる。また、森の提供する様々なサービスに着眼し、それらによって恩恵を受けている人を顧客として捉え、仕組みを工夫すれば販売できるものがあるかもしれない。その際、地域の文化、伝統を尊重し生かすことと、森林に対する愛や畏敬の念を忘れてはならない。

 森林は単なる木材工場ではない1)。また、二酸化炭素の吸収装置として利用するだけのものでもない。20世紀の後半、経済性を追い求めて、森林や林業の農業的な単純化が進められた。森林は多種多様な生物が生息する生態系である。このことを忘れて生産性を上げることだけに血眼になっても限界がある。生態系として複雑で豊かな森にすることが大事なのである。目的樹種としてスギ、ヒノキを植えて、侵入してくる広葉樹を取り除くという従来の林業の考え方の枠を取り払い、これらの広葉樹をも育てるのである。

「森林業」は多様で楽しい
 森林生態系の姿が多様であるように、「森林業」にも様々な姿があり得る。どれが正解ということはない。林業というと暗くてきついイメージが付きまとうが、森林所有者やそこで働く人が楽しく、生き生き、ワクワクと働けるのが「森林業」である。私は45年前の学生時代から「森林業」という呼び名と考え方を提唱してきたが、長らく様々な森の恵みは無料で享受できるのが一般的であった。しかしながら、ようやく世界的に環境の価値にも価格がつけられる時代になった。アメリカでは生物多様性や湿地、炭素のオフセット市場など環境マーケットが発達しており、日本でも森林のサービスが売れる時代になった。

 森の総合ビジネスである「森林業」では、伝統的な木材関係者のみならず、多様な非木材森林産品のユーザーであり、自然欠乏疾患などに悩む都市住民も顧客となる。このように考えれば、「森林業」のニーズや可能性は無限大といえるだろう。海外ではそのためにどのような取り組みをしているのか、関心がある方は本誌上の連載記事をまとめた拙著:「世界の森からSDGsへ-森と共生し、森とつながる」(上智大学出版)をご参照いただきたい。

「森林業」の発展のカギは
 「森林業」の今後の発展のカギは、①都市住民のニーズへの対応(地域住民とのコンフリトを起こさずに、地域の伝統と革新の融合を図る)、②新しいサービスの提供(例:NWFP=非木材森林産品=の採取サービス、野生生物観察ガイドなど)、③私有林へのアクセス促進(特に都市周辺)、④ガイドの整備などにあると考えている2)。

 日本では北欧諸国、ドイツ、スイスなどのように一般の人々が他人の所有する森林に立ち入る自由アクセスの伝統がないが、このことは逆に言えば、入場料を徴収できるチャンスでもある。2020年に全国の森林所有者を対象として、所有林への一般のアクセスを含む森林生態系サービス(FES)の提供についての意識を尋ねた結果がある。それによれば、森林空間利用・森林サービス産業に期待していると回答した人は全体の59%であり、レクリエーション利用への開放の考え方を尋ねたところ、対価支払いありで事故時の免責なら検討という35%の人を含めて、66%が開放に積極的な結果であった3)。日本でも条件さえ整えられれば、私有林の有料レクリエーションフィールドを拡大させることができると考えている。

 (東北農林専門職大学教授・森林業経営学科長 柴田晋吾)

参考文献
1) 柴田晋吾.2006. エコ・フォレスティング.日本林業調査会
2) 柴田晋吾. 2024. 森林生態系サービス(FES)提供のためのPES等のイノベーション
―欧州と日本の比較. 日本森林学会口頭報告
3) 柴田晋吾ほか. 2021. 森林の生態系サービスの提供者としての森林所有者の意識について.
「山林」誌 No. 1649.

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