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森林の取引価値は立木だけ 公益的な機能の評価の機運高まるか

人工林の取引は立木の価格を基に評価されることが多い

 札幌市から南西に約100キロメートル、車で2時間ほどのところに北海道ニセコ町がある。パウダースノーが有名なスキーリゾートで、世界中から観光客が集まる。そんな観光需要を視野に入れて、現地では外国資本もリゾート開発に乗り出している。

 ニセコで20年以上も不動産業を営む男性は、創業当初と比べて山林の取引価格が数十倍に値上がりしており、「スキー場の近くの山林であれば50倍くらいになったところも出ている」という。

 これは、観光地として需要の高い山林が一般の不動産物件と同じような取引価格に跳ね上がっていることを意味している。一方、一般の山林はオーナーの高齢化や後継者難という問題を抱え、買い手が見つかりにくい。そうした山林は「二束三文」の価格にしかならないとされる。

 「都市近郊林のような価格水準の高い地域以外の森林の取引は、土地そのものの価値よりも、その土地に生育している立木の価値で評価されることが多く、立木の樹種や量(材積)、搬出条件や市況などに価格が左右される」

 これは「森林の売買・評価に関する情報」という林野庁サイトからの抜粋だ。つまり、山林の取引はほぼ、そこに育成している立木のみの価格に基づく。一般の不動産物件と違い、有用な立木がなければ、山林は二束三文といわれるゆえんだ。このサイトでは「売却を検討する際は森林の土地のみならず、その上にある立木の樹種や材積などの情報をしっかりと把握したり、買い手に尋ねたりすることが重要」としている。

 このサイトでは、取引価格の算定例を示している。たとえば1㌶のスギの人工林に400立方㍍の立木材積がある場合を考える。日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調」の全国平均山元立木価格(北海道と沖縄県を除く)の2023年3月のスギの価格1立方㍍あたり4361円を使い、歩留まりを0.75とした場合は次のようになる。

 400 × 0.75 × 4361 = 1308300

 約130万円だ。

 歩留まりを0.75と仮定するのは、樹木に枝などの部分もあるためだ。林野庁森林整備部計画課の担当者は「歩留まりは樹種や使い方などで変わってくるが、だいたい0.7~0.8くらい」という。

 ちなみに、スギ以外の1立方㍍あたりの単価はこの調査で、ヒノキが8865円、マツは2672円となっている。

 山元立木価格は、規格が末口径20~22 ㌢、長さ3.65~4㍍ 程度の並丸太が、最寄りの木材市場に運ばれた際の素材価格から、伐木・造材、運搬などのコストを差し引いたものだ。山林からの搬出が難しい場所はコストがかさみ、山林の取引価格は目減りする。

 立木の価格が安い要因には、国産材の需要も影響している。

 農林中金総合研究所の小畑秀樹常務執行役員は「海外の材に比べて国産(日本)材がお得になればいいのですが、現状は国産材が圧倒的に強くはありません。買いたい人が少ないので買いたたかれています」と話す。

 山林の取引価格が二束三文の現状では、日本の森林を維持していくのは容易でない。国土の約4割は人工林で、間引きなどの手入れが必要になっている。人手もコストもかかるが、現状の山林取引価格ではそのコストを捻出するのは難しい。手入れがおろそかになって山が荒れて、大雨で土砂崩れや洪水などの災害が発生しやすくなっている、と懸念されている。

 一方、森林には水の浄化や二酸化炭素吸収・酸素供給のほか、山のミネラルが川を伝って水産物の栄養になる、洪水防止や種の保存になるといった間接的な役割もある。こうした役割は公益的機能と呼ばれる。

 こうした役割への評価が山林の取引で織り込まれず、「価格に織り込まれるのがほぼ立木のみになる点が問題だ」と、小畑さんは指摘する。

 小畑さんは、金融市場を見てきた経験から、将来キャッシュフローを現在価値に割り引く手法に注目している。たとえば企業の価値を算定する際に、将来にわたり生み出すキャッシュフロー(お金の流れ)を現在の価値に割り引いて反映させている。山林の取引でも、立木の評価だけでなく、二酸化炭素の吸収など公益的な機能への評価も織り込んでいくことが必要ではないかと、提言している。

 地球温暖化対策として、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量削減や吸収量を「クレジット」として、国が認証する仕組みが導入されている。森林吸収系クレジットは取引もされている。さらに小畑さんは北米などでの大規模な森林投資では「木材価格相場だけを見ているのでなく、二酸化炭素の固定で発生する排出権を投資リターンに含めている」と指摘する。

 一方、公益的機能には定量化が難しいものもある。林野庁の担当者も「二酸化炭素は排出削減の取り組みを定量的に評価できるが、それ以外の部分で、森林の公益的機能を定量的に評価することは難しい」と説明する。

 森林が持つ多面的機能を将来にわたって発揮させるため、自治体に森林環境譲与税が配分され、間伐などの森林整備、人材育成や担い手の確保などに充てられている。ただ、林業は林業従事者の減少、国産材価格の長期低迷など厳しい環境に置かれており、施業放置林も増えている。

 小畑さんは、山林取引の価格に関して「正当な対価を払わずサービスを享受している」と手厳しい。自身のコラムでも「途上国から鉱物をかすめ取ってぼろ儲けしてきた強欲トレーダーたちと、われわれはどこか似てしまっていないか?」と指摘し、持続可能な方向への転換を呼び掛けている。

 最近、異常気象や災害が頻発しており、環境問題への社会的関心は高まっている。森林の公益的機能を踏まえた、山林の経済的な評価を見直す気運も高まってくるのだろうか。

 

 (浅井秀樹)

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