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森林面積は減っている?

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伐採されたスギ林=秋田県

 

 

 日本は国土の約3分の2が森林で、森林面積はこの数十年間、ほぼ横ばいで推移してきた。ただ、森林面積には統計上、自然災害で山崩れしたところや、牧草地のほか、伐採後に再造林されていない土地も含まれる。樹木が生えていないのに、どうして森林なのか。そんな素朴な疑問がわいてくる。

 林野庁が公表する「森林資源の現況」を見てみよう。森林面積は直近の2022年3月末で2502万㌶、このうち天然林が54%、人工林は40%を占めている。問題は残る6%の部分だ。そこは竹林や「無立木地」と呼ばれる場所だ。無立木地は立木や竹が生えている面積が3割未満の土地を指し、未立木地と伐採跡地がある。

 未立木地は、山崩れや洪水などの被害の跡地や、採草、放牧などに供される土地とされる。伐採跡地とは再造林を前提に伐採し、まだ植林していない土地のことだ。

 樹木がほとんど生えていない無立木地を、なぜ森林面積にカウントしているのだろうか。

 「森林法が森林および森林に供する面積としていて、森林計画上、供する面積までをカウントするからです」

 九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授はこう解説する。森林法が対象とするのは森林のみならず、森林に供する土地のほか、将来森林にする計画の土地も森林面積に含めている。

 理由について林野庁森林整備部の担当者はこう説明する。まず、放牧地などの未立木地を森林面積に含めることについては「(森林を)面的に管理しており、その区域を森林に位置づけるので、森林政策の対象に入ってくる。採草地などを最初から除外することもあるが、どうしても含んでしまう」という。

 伐採跡地も森林面積に含めるのは「伐採跡地には、木を直接植えるか、周りの木から種が飛んできて、後に木が生えるため」と担当者は説明する。後者は「天然更新」と呼ばれる。「あとで雑木林に戻ったか、数年後に確認する。確認が終わるまでは伐採跡地になる」とも話す。伐採跡地として森林面積にカウントするのは、あくまで数年間の暫定的な対応で、将来は木が生えてくることが前提となっている。

 伐採する際に、作業に大型機械を導入することもあるほか、伐採木の搬出通路も必要になる。その通路が森林作業道だ。最近は機械の大型化もあり、道幅が広くなっている。この作業道は森林面積の統計上、どうなるのだろうか。林野庁の担当者は「1㌶のうち、作業道が0.1㌶なら立木は0.9㌶となるが、森林計画での森林面積としては1㌶」と説明する。

 樹木を伐採すると切り株、根っこが残り、10年くらいして朽ちていく。伐採跡地が豪雨に見舞われても、すぐに山崩れなどの災害に結びつくわけではないとされる。ただし、伐採後10年以内に、再造林か天然更新で確実に木が生えないと、豪雨などで自然災害が発生するリスクは高くなる。

 森林を伐採した跡地に確実に木が生えず、日本の森林面積が後退している懸念はないのだろうか。

 佐藤教授は、林野庁が5年ごとに行う森林の調査で、人工林や天然林の合計値の推移をみていくとわかるという。そのうえで、こう指摘する。

 「日本の森林面積は約2500万㌶と言われてきて、それほど減っていないので、おかしいとは言われていなかった。今後は再造林されていない所など、きちんと見えるようにしていかないといけません」

 林野庁の「再造林の推進について」(令和3=2021年12月)という資料には、「主伐面積に対して人工造林面積が3~4割程度で推移」と記されている。つまり、伐採跡地の6~7割は再造林されていない。

 この理由を林野庁の資料では次のように分析している。「木材価格の低迷や造林費用の負担が大きく、森林所有者が林業経営に関心を持てない」。林業従事者数の近年の推移を見ると、伐採などの従事者は約2万人で推移してきたが、育林事業者は4.2万人から1.9万人に減少している。

 戦後の大規模植林から数十年を経て、「切りどき」を迎える一方、若い木が少ない。樹齢構成がいびつな状況が生じており、切って再び植える必要に迫られている。しかし、前述のような理由から、再造林はなかなか進んでいない。

 状況の改善には、造林コストの低減や苗木の安定供給、下刈りや間伐の省力化など新たな技術の活用が欠かせない。国も、手をこまぬいているわけではない。

 林野庁の担当者はこう話す。「1㌶あたり3千本の木を植えると、途中で間引くのにコストがかかります。そこで『エリートツリー』という育ちのいい木の開発・普及が進められています。最初から根っこを張るので、植える本数を減らせて、下刈りの回数を減らせます」

 森林総合研究所・林木育種センターのサイトによると、エリートツリーとは、地域の人工造林地で最も成長が優れた木を「精英樹」として選抜し、優良なもの同士を人工交配して、さらに優れたものを選んだものだ。低コストで早く育つことが期待されている。

 冒頭の問いかけに戻ろう。日本の森林の実態がどうなっているのか、林野庁の担当者は「中身を見ていかないといけない。森林面積の統計からは見えない」と率直に語る。森林面積にカウントする統計上のからくりもあるが、伐採跡地などを森林にしていく国や自治体の計画通りに、現場が森林を再生していくとは限らない。人手不足や採算割れなどの課題を抱えるからだ。「木を切る側と、計画する側がいるが、国公有林は別として、森林はほとんど個人の財産です。そのため、個人と行政との整合性がとりにくく、どうバランスを取っていくのかが課題です」と説明する。

 (浅井秀樹)

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