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欧州における近自然森林管理(2)

 昨年11月の配信に続いて、欧州における近自然森林管理について紹介したい。

 

常時被覆林業(CCF)による森林管理は欧州全体の22~30㌫と推定

 

 2020年のForest Europeの調査によれば、欧州の森林の約75㌫が同齢または数種以下から構成される一斉林で、一斉林ではない状態であるのは残りの25㌫だとされている。後者が皆伐・一斉林造成を行わない施業方法である常時被覆林業(Continuous Cover Forestry、CCF)などの管理行為の結果によるものなのか、それとも自然状態でそうなっているのかは判然としない状況だった。

 このほどMason[2022]らの欧州33カ国を対象としたアンケートの結果、地域や国ごとのCCFの取り組み状況がある程度明らかとなった。それによれば33カ国のうち、一斉林造成による森林管理がより一般的な国が過半数の66㌫となっているが、最近の30年間にCCFを実施しているエリアが増加しており、CCFによって管理されている森林は欧州全体の22~30㌫程度を占めていると推定されている。

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良好に天然更新している針葉樹が育ち、混交林となっている森林(ザグレブ近郊・クロアチア、2020年1月撮影)

 

 

地域や国ごとの取り組みには大きな違いが

 

 興味深いことに、地域や国ごとの取り組みの差が非常に大きい。CCFの比率が特に高い国(76㌫以上)は、スイス、スロベニア、ボスニア、ギリシャであり、イタリア、ルーマニアは51~75㌫である。

 一方、特に低い国(0~5㌫)は、スウェーデン、エストニア、リトアニア、アルバニア、フィンランド、アイルランド、ポルトガル、ウクライナであり、ノルウェー、イギリス、フランス、ポーランド、スペイン、セルビア、コソボ、ラトビア、チェコ、スロバキア、ハンガリーは6~25㌫となっている。また、ドイツ、ベルギー、オランダ、北マケドニア、クロアチアは26~50㌫である。

 

北欧地域でCCFがほとんど行われていない理由

 

 スウェーデンやフィンランドなどの北欧地域でCCFの実施率が特に低いのは、歴史的な背景がある。20世紀の中頃までは択伐などのCCFが一般的に行われてきたが、スウェーデンでは1979年の林業法がCCFを禁じ、この措置は環境目的を生産目的と同等に位置付けた93年の新森林政策が打ち出されるまで継続された。このようにCCFについては懐疑的な見方があったことから、今日では北欧やバルト海諸国においては、皆伐・一斉林造成が一般的な森林管理の方法となっており、森林全体の55~60㌫程度が60年生以下の若い林齢の森林となっているのである。

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植栽した針葉樹のなかにカンバ類が侵入して混交林状態となっている森林。ロンドン市民などがレクリエーションのために訪れる森であり、レクリエーション目的のために好適な状態となっている(ムアバレー国有林・イギリス、2019年11月撮影)

 

CCFの取り組みが一般的なスイスなどとCCFへの移行が目立つ大陸地域

 一方、欧州中央部のスイス、南ドイツ、フランス東部などはCCFが最初に確立された地域であることからCCFの取り組みが一般的に行われている。また、一般市民の森林管理についての考え方が変化していることなどに対応して、デンマーク、ドイツ、アイルランド、オランダなどでCCFの取り組みへの関心が高まってきており、ベルギー、デンマーク、ドイツ、フランス、オランダなどでCCFによる森林管理への移行が目立っている。このような伝統的な一斉林林業からより自然に近い森林管理への移行は、長期にわたる継続的な取り組みを要するものであるが、欧州大陸の多くの森林が、20~30年前と比較してより自然に近いものになってきているのである。

 (上智大学客員教授 柴田晋吾)

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常時被覆林業(CCF)の原点である恒続林施業(Dauerwald)に誘導している森とそのイメージ図(チューリッヒ郊外・スイス、2019年11月撮影)

 

文献

1)European 2023. Guidelines on Closer-to-Nature Forest Management. Commission Staff Working Document.

2) W.L. Mason, J. Diaci, J. Carvalho and S. Valkonen. 2022 Continuous cover forestry in Europe: usage and the knowledge gaps and challenges to wider adoption :  An International Journal of Forest Research, Volume 95, Issue 1, January 2022, Pages 1–12, https://doi.org/10.1093/forestry/cpab038

 

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