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基盤強化の広域合併だけでいいのか  森林整備の中核担う森林組合

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国有林の植林や下刈り業務を受託して、作業を行うのも森林組合の事業の一つだ=秋田県能代市

 森林の育成には、植林、生えてくる草の下刈り、適度に間隔をあける間伐といった作業が欠かせない。日本全国の森林で、これらの作業の受託面積で約半分を担っているのが森林組合だ。成長した立木を収穫(販売)するために伐採する主伐は同約2割程度を請け負っているともいわれる。

 森林組合は森林オーナーが組合員となり、2022年3月末で610組合、組合員は約148万人だ。林野庁が今年5月にまとめた「森林組合の現状と課題」は、森林組合を「わが国の森林整備の中心的な担い手」と指摘する。

 合併により一定規模の経営基盤を持つ割合が着実に増加し、米国での住宅需要の高まりをきっかけに世界中で木材が不足し、価格が高騰した「ウッドショック」などで収益の改善もみられたが、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な組合も残されていることなどが課題と指摘している。

 森林組合の数は1954年に5289と最多だったのが、経営基盤の強化を目指す国の意向のもとで、合併が進んだ。戦後は市町村ごとに森林組合があったが、国が市町村の合併を進めたことも背景にある。

 「外的な圧力で広域化したところも一定程度ある一方、財務・業務基盤が脆弱な組合もある。組合間で規模の差があり、十把一絡げにとらえるのは難しい」。農林中金総合研究所主事研究員の多田忠義さんはこう話す。

 林野庁によると、森林組合には常勤理事、専従職員がいないところがそれぞれ22%、1%あり、「現状と課題」は「業務執行体制が不十分な組合が少なからず存在」すると指摘している。一方、基盤強化のため合併したものの、多田さんは「広域化して山主との距離が遠くなった」ところもあると指摘する。組合員や職員などが、日ごろのさまざまな相談や関係の構築に希薄になっている部分があるとみている。

 さらに、基盤強化のために広域合併したものの、利益の出ていない森林組合もあると、多田さんは指摘する。たとえばどの業務も手がけているが、加工事業が赤字の森林組合があるという。加工事業は、特殊性のあるものでなく一般的な製品になると、民間の製材所に価格競争でかなわないことがある。ところが、補助金でつくった施設だと簡単に撤退もできず、設備投資の費用を償却するために一定年数は稼働させて、苦し紛れに続けているところもあるという。

 多田さんは「森林組合の収支が全体として回っていればいいと言い切っていいのか。業務の一つ一つを丁寧に見ていかないといけないのでは」と話す。規模の小さな森林組合がフルスペックの業務をする必要があるのか、疑問も呈している。

 林野庁の「現状と課題」は21年度の経営状況について、木材価格の高騰を受けて、森林組合の87%が事業利益、92%が経常利益を計上したとしている。ウッドショックの影響とされる。ただ、木材市況は一時的に好転したものの、昨年夏ごろ以降、その反動で需要が低迷し木材価格がピークに比べて落ちた。多田さんは「手放しで喜べるほど環境は改善していない」と話す。加えて、原油価格や人件費が上昇するなど、森林組合の経営を圧迫する要因が新たに出てきているという。

 経営基盤の問題に加えて、特に多田さんが懸念するのが、「組合員の組織化やかかわりといった基盤の根本に危機を迎えている」点だ。組合員を構成する山主が高齢化しており、今後何年かで、後継者がいないまま、亡くなる人も少なくないとみられる。すでに後継者のないまま亡くなった人や、相続人が都会などに分散していることもある。

 「林業がもうからない時代が長く続いたが、資源としては世界中で需要が増え続けている。木材需要が世界的に減るとは考えにくい」(多田さん)。このため、木材の需給関係が今後20、30年くらいタイトになるとみている。世界中で植林もしているが、育つまでには時間がかかり、供給が需要に追い付かないためだ。

 森林資源の豊富な日本は、木材の安定供給に向けてどうしていくのか。その中核を担い、広域合併を進めてきた森林組合のあり方が、あらためて問われている。

 

 (浅井秀樹)

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