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メガソーラー開発規制のあり方は 今後の課題は許可済みの未着手案件か

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牧草地の傾斜を利用した太陽光発電設備。福島県内には大規模な太陽光発電施設が多い=2019年、福島県大玉村、朝日新聞提供

 「ノーモア メガソーラー宣言」を、福島市の木幡浩市長が今年8月末の記者会見で表明した。

 大規模な太陽光発電設備の山間への設置が相次ぎ、森林伐採や用地造成で景観の悪化や、地域の安全・安心について「市民から心配の声が多く寄せられている」という。宣言は、福島市は大規模な設備の設置をこれ以上は望まないと明記した。

 福島市には建設中も含め、「メガソーラー」と呼ばれる大規模な太陽光発電施設が26ある。特に、「市街から西側の吾妻山麓(さんろく)に大規模なものができ、市民の目につくようになった」と市の温暖化対策推進係の担当者は話す。

 こうした山間での太陽光発電設備やゴルフ場の整備の許可については、国の林地開発許可制度がある。従来は1㌶を超えるものについて、都道府県知事に申請し、知事は災害防止、水害防止、水の確保、環境保全の4要件を満たせば許可してきた。今年4月から太陽光発電設備の場合は対象について、0・5㌶を超えるものと規制を厳しくした。メガソーラーの設置が増え、福島市をはじめ各地で問題が起きているからだ。

 福島市の吾妻山麓で山肌がむき出しになっている開発案件は規模が大きく、従来の基準で県が許可したと、市の担当者は説明する。市役所には市民から問い合わせが来ているが、市担当者は「許可が出たものは中断させることができない」という。

 茅野恒秀・信州大人文学部准教授は「福島県内にはメガソーラーが多い」と話す。国は2012年に太陽光や風力などの発電による電力を一定期間、一定価格で電力会社が買い取る再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入した。これを受けて、この10年くらいでメガソーラーの設置が増えている。

 一方、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故で、福島の森林やきのこが被害を受け、風評被害もあった。茅野さんは、使い道のめどがなくなった山林をメガソーラー用地として所有者が手放していったと説明する。

 林地開発許可制度では、対象地が0・5㌶以下なら知事の許可がいらない。それならば、事業者が規制を回避するような開発を小出しに繰り返した場合は、どうなるのだろうか。林野庁治山課の担当者は、実質的な事業者が同じか、時期が連続するか重なっているか、場所が同じか、という3要件をもとに自治体が判断すると説明する。「都道府県の一体性の基準により対応している」(林野庁の担当者)。自治体には、具体的に基準を定めているところもあれば、総合的に判断するところもあるという。

 「林地開発許可統計を見ると、1㌶を超えるものは、19年が一番多い。面積でも件数でも、20年、21年と減る傾向にある」(林野庁担当者)

 茅野さんが調べたところ、たとえば宮城県は、再生可能エネルギー発電設備の開発をめぐる地域でのトラブルを避けるために課税する全国初の条例案を今年7月、県議会で可決した。平野など住民の理解を得やすい「適地」を非課税にすることで、開発を適地に誘導するのが狙いだ。対象は、課税対象となれば、森林開発面積が0・5㌶を超える太陽光や風力、バイオマスの発電設備。所有者から営業利益の20%程度に相当する額を毎年徴収する。施行には総務相の同意が必要となる。総務省と協議し、来年4月の施行をめざしている。

 課税された場合、発電設備の予定収益が見合わなくなるという。

 長野県も厳しい対応を取っている。これに対し、福島県は対応が後手に回っているのではないかと茅野さんはみる。

 茅野さんによると、歴史的に山林が大規模開発の対象となったのは、今回のメガソーラーで3度目。最初は高度成長末期の1970年代ころで、別荘やゴルフ場の開発ブームがあった。そして87年のリゾート法(総合保養地域整備法)によるゴルフ場やレジャーランドの開発ブーム。ここ10年くらいは固定価格買取制度によるメガソーラー設置のブームとなっている。

 日本は憲法により私有財産権が守られる一方で、土地利用について全体的な規制がないと茅野さんは指摘する。森林、農地、都市計画区域などに、ばらばらの開発規制制度があるが、農地法は転用手続きが厳しいことから、山林が狙われてきたとみている。

 「メガソーラーの用地は、個人所有の山もあるが大規模なものは共有林が多い」と茅野さんは話す。特に、茅野さんが調べた長野県と岩手県では「ほとんどが共有林だった」という。江戸時代や明治時代から、地元の人たちが入会利用してきたところが共有林になっていることが多い。共有林の権利者は地元の人たちで、高齢化して負担も大きく、茅野さんは「『それならメガソーラーに』となり、社会的状況がメガソーラーの設置を助長している」とみている。そして、「事業者にとっては所有者の権利を個別に取りまとめるよりも、共有林を狙っていく方がいい」とも話す。

 ただ、大規模なメガソーラーの設置件数や面積は減ってきている。林地開発許可制度の見直しで太陽光発電は対象地が0・5㌶を超えるものと規制を強化したことで、茅野さんは「新規案件はかなり抑制されるだろう」とみる。

 一方、従来の林地開発許可制度の基準で許可を受けながら、着手していないものがあり、今後はこれが問題という。例えば事業者に計画遂行能力がないとか、負債などを抱えて金融機関から融資を受けられないとか、何らかの問題を抱えていることもあり得る。そうした事業者が地元と適切にコミュニケーションをとる能力があるのか、茅野さんは疑問を呈する。

(浅井秀樹)

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