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欧州における近自然森林管理(1)

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恒続林への誘導が図られている森林(スイス・チューリッヒ郊外、2019年11月撮影)

 

近自然森林管理の多様な姿

 近自然森林管理(CTNFM)と称される森林管理方法には、近自然施業(Close-To Nature Silviculture、CTNS)、常時被覆林業(Continuous Cover Forestry、CCF)、統合型森林管理(Integrated Forest Management、IFM)、3区分管理(Triad Management、TM)、保残伐林業(Retention Forestry、RF)などが含まれる。

 近自然施業と常時被覆林業は、いずれも0.2~0.25㌶未満の単木やグループ伐採によって多様な樹種のモザイクや不規則な森林構造を創出するものである。ドイツやフランスでは近自然施業、イギリスでは常時被覆林業と称することが多い。ただし、自然度(naturalness)は定義しにくい概念のため、森林構造に明確な焦点を当てた常時被覆林業(CCF)という用語が適切という意見もある。

 統合型森林管理は一カ所の森林で生物多様性保全と持続可能な木材生産の両立を目指す統合的アプローチである。この対極にあるのは、生物多様性保全のために人の手を入れない保護区を区分して設ける分離型(Segregated)アプローチであるが、欧州では統合型アプローチの方が一般的となっている。

 3区分管理とは、皆伐などの集約的施業、保護地域、および多目的な統合的管理のエリアに分けて管理する方法である。保残伐林業は我が国でも古くから実施されてきた技術で、皆伐施業において生物多様性を高めるために一部の木を伐採しないで残す方法だ。常時被覆林業においても適用可能であるが、保残する木の位置や量によって森林構造の多様化による生物多様性保全の効果が左右される。

 

 写真は、単木や群状の伐採によって不規則で多様な森づくりを推進している不規則森林協会(AFI、Association Futaie Irreguliere)のメンバーが車に貼っていたステッカーである。多様な樹種からなる常時被覆林業の目指す姿を示している。

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アベリストウィス/イギリス・ウェールズ(2019年11月撮影)

 

近自然森林管理の原則と施業方法

 CTNFMの一般的な原則として、自然力に学びその活用を図ること、森林の構造とパターンの多様性と複雑性の維持、異なる空間スケールにおける機能の統合、地域の自然攪乱パターンに基づいた多様な施業方法の使用、残置される森についても収穫物と同様の注意を払う影響の低い収穫方法の採用、生息域・土壌・森林の微気象の保全などがある。

 施業方法は天然更新が基本であり、人為的な管理干渉を最小限にすること、森林土壌と水生態系の保全・修復を図ること、枯死木を適切に保残すること、特定の種の保護、有蹄動物を自然の収容能力以内に管理することなどがある。

 (上智大学客員教授 柴田晋吾)

 

参考文献

1) European 2023. Guidelines on Closer-to-Nature Forest Management. Commission Staff Working Document.

2) W.L. Mason, J. Diaci, J. Carvalho and S. Valkonen. 2022 Continuous cover forestry in Europe: usage and the knowledge gaps and challenges to wider adoption. An International Journal of Forest Research 2022; 95(1), 1–12, https://doi.org/10.1093/forestry/cpab038

3) 柴田晋吾 2022 世界の森からSDGsへ ―森と共生し、森とつながる.上智大学出版

 

 

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