林業機械大型化による山道拡幅、皆伐 治山進むも新たな災害リスク
豪雨による自然災害が後を絶たない。発達した雨雲が線状にのびる線状降水帯が発生しやすくなっているなど、気候変動の影響による激甚化も指摘されている。
一方、「国土の風水害に対する安全度は史上最も高い状態にある」と、森林総合研究所の多田泰之主任研究員は、日本治山治水協会創立80周年記念特集の論文「国土の変遷と災害」で指摘する。
かつては大規模な風水害で数千、数万人規模の死者も出た脆弱な国土だったが、現在の風水害の死亡者の確率は1件あたり127万人に1人にまで減少しているという。治水施設の整備、山地の森林の充実が重要な役割を果たしたとしている。
森林の充実については、最新の森林・林業白書(令和4年度)が明治時代からの森林を維持・復旧する治山対策を特集している。第2次世界大戦当時、軍需物資などで木材の伐採が進み、戦後復興でも大量に伐採され、森林が大きく荒廃した。そこで、国は荒廃地などの復旧整備を計画的に進め、国土緑化運動や全国植樹祭などもあり、豊かな森林がよみがえっていったとしている。
他方、林業就業者の高齢化や後継者難、山林所有者の散逸などで、人工林の手入れは行き届かず、荒れた山が増えている現実がある。
全国の自伐型林業展開を支援するNPO法人・自伐型林業推進協会は、皆伐や荒っぽい間伐作業、放置林が目立つと指摘する。加えて、最近の林業が補助金頼みとなり、それを原資に大型機材を導入して作業効率を追求している点を課題に挙げる。
高性能林業機械やICTの導入による効率の良い林業は国がめざす方向だが、その結果、大規模な皆伐が各地で展開されて、山道(森林作業道)も大型機材を通すために幅が広くなっている。この皆伐地と森林作業道が豪雨被害を引き起こしたり、拡大させたりしているのではないか。協会はそう懸念している。
具体的には、熊本県南部を中心とした2020年7月の豪雨で起きた球磨川流域の洪水氾濫と土砂災害を挙げる。協会関係者は、災害の原因として豪雨が強調されているが、大規模な皆伐や幅広の路網整備も影響したとみている。九州などの人工林は2010年代に主伐が活発になった。再造林しても、樹木が育つまでは山腹崩壊のリスクが高まることが知られている。
協会は山林所有者と間伐・伐採などを担う施業者が協力しながら、小型機材でコンパクト、丁寧な施業を長期にわたって実施していくことを提唱する。森林作業道の道幅も、協会は2・5㍍以下で施業するとしている。
これに対し、標準的な10㌧前後の油圧シャベルが通るには道幅が3・5㍍以上必要とされる。つまり大型機材を山に入れるには、道幅を3・5㍍や4㍍に広げる必要がある。
道幅に山道の距離をかけると、地表がむき出しになった部分の面積となるため、わずかの道幅の違いでも豪雨災害で影響が出てくる可能性がある。
不適切な造成による森林作業道で「崩落相次ぐ」
また、林道作業道に詳しい鈴木保志・高知大学教授(農学部門)は、開設基準が明確になっている林道は「ほぼ大丈夫で、すぐには崩れない」と話すが、「森林作業道が問題」と指摘する。
森林作業道は作設指針があるものの、それはつくるうえで考慮すべき最低限のポイントを示したものだ。今年3月末の林野庁長官の通知は、地域ごとに地形や地質、土質、気象条件が異なるため、「地域ごとの条件を踏まえたきめ細やかな配慮の下に構築されるべきである」としている。
鈴木教授は「作設指針に沿ったものはいいが、従っていないものは問題がある」と話す。
山に道をつくる際には補助金が出るが、条件により上限がある。上限を超えた分は事業者負担となり、どこまで追加の負担ができるかという問題がある。山に道をつくる単価は、道幅などのほか、その土地の傾斜などでもコストが違ってくるという。
山道の傾斜について、鈴木教授は傾斜が20度くらいなら道幅3㍍くらいでも問題ないが、30度、35度になると道幅を狭くしても、それだけではだめで、手間やコストをさらにかけてつくる必要があるという。土を掘ったり盛ったり、締め固めたりする土構造だけで道をつくると壊れることがあるとも警鐘を鳴らす。
山道をつくる事業者の技術力の差も課題だと鈴木教授は指摘し、「技術の高くない業者がつくった作業道では大きな崩壊が続いた」と語る。
林道や森林作業道などについて、林野庁森林整備部の担当者は「基準を満たさないものをつくると崩れることがある。道をつくるべきでないところにつくるのは好ましくない」と話す。ただ、山道の問題が災害を引き起こしたり、被害を拡大させたりしたのかは「特定が難しい」として、山道と災害との因果関係については慎重な姿勢を示している。
(浅井秀樹)