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後を絶たない違法伐採 言い逃れの余地 境界未確定問題が背景に 

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無断伐採の被害があった山林=2019年7月、宮崎県国富町、朝日新聞社提供

 

 国内でも民有林の無断伐採が後を絶たない。林野庁によると、民有林の無断伐採について、地元の自治体に情報提供や相談があったのは昨年、72件あった。うち23件が警察への相談だった。所有者がわからない山が増えていることも、無断伐採の背景にあるとみられている。

 林野庁の発表によると、72件の内訳は、伐採業者や伐採仲介業者が故意に伐採した疑いがあるものが14件、境界の不明確や当事者の認識違いによるものが45件だった。発覚していないものもあるとみられ、実態はよく分かっていない。地域別でみると、九州が24件と、2位の北海道・東北の14件より目立っている。

 「昔と違い、いまは所有者が自分の山を見ていないことがある。分からないうちに切られていることがある」と、藤掛一郎・宮崎大学農学部教授は話す。

 九州は民有林の割合が高く、林業が盛んだ。特に宮崎県はスギ素材生産量が1991年以降32年連続日本一、2021年の木材生産部門の林業産出額が約322億円と、こちらも日本一になった。藤掛教授は「宮崎県のスギはもうけやすい」と話す。戦後の植林で樹木が育ってきているほか、成長も早い。大規模な木材工場もあり、木材をさばきやすい地域という。宮崎県で盗伐が話題になるようになったのが10年くらい、よく聞かれるようになったのが15年くらいからという。

 一般的に、山林を伐採する際は隣接する山や所有者を確認する。境界が分からないときは、双方の所有者が立ち会って決めないと、図面だけでは分からない。所有者を聞いてまわっても、所有者に行きつかないこともある。

 境界がはっきりしないときは、境界とみられるところから数㍍くらい離れたところまでの伐採にとどめるのが、トラブルを防止することになる。

 ただ、よくあるのは、それが誤伐なのか、盗伐なのか、真相が分からないケースだ。境界が分からないのであれば、微妙なゾーンを伐採するべきではない。しかし、「故意でないと言えば逃げ道がある」(藤掛教授)。故意なのか、認識違いなのかを立証するのは難しいという。

 藤掛教授が知る限り、森林の窃盗罪で立件されたのは1人だけという。本人が「間違えました」といえば、よほど悪質でない限り、損害賠償の支払いで終わることが多い。

 

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無断伐採された山林に残る切り株=同

 問題になるのは、山林の売買でブローカーが介在するケース。藤掛教授によると、伐採する際に、別の所有者の山林に入り込んでしまっていても、「ブローカーから、そこまでが境界と聞いていた」と弁明することがある。しかし、ブローカーはそんなことは言っていないと主張し、食い違うこともあるという。ブローカーが何人も介在していると、どこが境界と伝えたのか、うやむやになってしまうこともある。

 藤掛教授は解決策として「伐採する業者を登録制や認可制にして、行政がしっかりと管理すればいい」と話す。問題を起こした業者に資格停止などのより厳しい対応をとれば、悪質な問題はなくなるとみている。

 また、合法に伐採されたクリーンな木材のみを流通、活用する取り組みの徹底も対策となる。

 林野庁は自治体に対し、警察などと連携した現場のパトロールを要請している。

 また、問題の背景には、地籍調査が進んでいないこともある。地籍調査は、主に市町村が土地所有者を明確にして、面積を測量するもの。1951年に制定された国土調査法に基づき、実施されてきたが、山林では進んでいない。林業の関係者からは「境界未確定は深刻な問題だ」との声が聞かれる。

 林野庁は、衛星画像や航空レーザーを活用するなど、伐採状況を把握する仕組みの普及にも努めている。

 時間が経つほど、山林の所有者は高齢化し、亡くなると相続人が分散し、地元に居住しない人も少なくない。現地での境界がどこになるのか、知らない人ばかりになれば、確定する作業は容易でない。境界確定は無断伐採を防ぐためだけでなく、「切り時」を迎えた木の伐採、再造林を進めるうえでも、急務となっている。

 (浅井秀樹)

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