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「森林クレジット」を知っていますか? 待ったなしの地球温暖化対策

 日本初の地方創生と環境循環プロジェクトを兼ねた道の駅というのが鳥取県内陸の日野郡日南町にある。「にちなん日野川の郷」。施設のウェブサイトには「利用することで、日南町の森林を守る!」とある。全国で初めて二酸化炭素の排出量ゼロを目指すとうたう。二酸化炭素はメタンなどとともに、地球温暖化の原因となる温室効果ガスだ。
 具体的には、この道の駅で買い物をすると、1品で1円分が町の森林を守る活動に役立てられる。「カーボン・オフセット」と呼ばれる二酸化炭素の排出削減や吸収量を増加させる取り組みの一環だ。

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道の駅「にちなん日野川の郷」=同施設のウェブサイトより

 

 どのように取り組みが金銭に換算され、市場で取引されるのだろうか。
 ここで活用されているのが、国が導入している「J―クレジット」という仕組みだ。
国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると表明している。社会経済活動による排出を減らすことに加えて、植林や森林管理活動などによる樹木の吸収量を排出量から差し引くことで、実質ゼロにするという。

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道の駅「にちなん日野川の郷」のサイトにはJ―クレジットを、町内の森林保全に活用していることが紹介されている

 J―クレジット制度は国がその実現に向けて13年度に導入した。省エネ設備の導入や森林経営などによる温室効果ガスの削減量や吸収量を算定し、クレジットとして国が認定する仕組みだ。
 一方、企業は事業活動を通じて排出する温室効果ガスをクレジットの購入でオフセット(相殺)するほか、商品にひもづけして、たとえば温室効果ガス排出ゼロの商品などと宣伝して消費者に販売することができる。
 J―クレジットは樹木による「吸収系」と、省エネ設備や、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入による「削減系」などに大別される。
たとえば「吸収系」の森林クレジットは、森林のオーナーや、実際に間伐や植林・再造林などを行う森林組合といった事業主体が、期間8年(最長16年まで延長可能)の森林経営計画をたてて申請する。
制度見直しで、森林吸収系の普及促進めざす
 しかし、制度には課題も多い。
 森林吸収系の認証は普及が進んでいない。認証量はJ―クレジット全体の2%弱にとどまる。「圧倒的に少なく、うまくいっていなかった」と林野庁森林利用課の担当者も認める。
 そこで昨夏、制度を見直した。これまで天然林は森林施策の対象外で吸収量の算定対象でなかった。一方、森林経営計画のエリアには、人工林のみならず天然林もある。「天然林も一定の保護活動などをすればクレジットの対象にした」(林野庁担当者)。
 また、生産された木材は炭素を吸着しているが、その木材がいつ廃棄されるのかなどを把握するのは難しく、炭素蓄積量の変化量を評価できないという問題があった。制度見直しにより、100年後の残存を2割弱とするなどクレジットとして認めるようにした。
 林野庁によると、森林管理プロジェクト(森林経営、植林、再造林)の登録件数は、初年度の13年度が30件で、その後も年間数十件程度で推移していた。21年度には99件だったが、制度改正で「より森林管理プロジェクトをつくりやすくした」(林野庁担当者)という22年度は126件に増加。二酸化炭素の削減相当量に換算したクレジットの認証量も、22年度は大幅に拡大した。
 一方、市場を通じたクレジットの取引価格の問題もある。森林の経営管理は高コストのため、生産側は高い値段でクレジットを売りたい。市場価格はたとえば削減系の単価が2千円前後とされるのに対し、吸収系は数倍程度になるという。
 そこは「マーケティングで、見せ方の問題になる」(林野庁担当者)。企業は単純に安いクレジットを購入するだけでなく、あえて単価が高い吸収系を購入することで消費者に、「この商品・サービスが森林由来であり、これだけオフセットにつながっています」などとPRできるという。
「企業の大量ニーズ、満たしていない」との指摘も
 ただ、普及は道半ばだ。国際環境NGOの「コンサベーション・インターナショナル・ジャパン」の浦口あやテクニカル・ディレクターは、J―クレジット制度で認証されたクレジットが多くないことから、「大量に必要な日本の企業のニーズを満たしていない」と指摘する。
 浦口さんは、耕作されなくなった農地や、土壌が流出しやすい斜面地などに植林し、「森に戻す」のも大切な取り組みとみている。ただ、林野庁担当者によると、耕作放棄された農地は用地転換をして森林土地利用にしないと、森林経営計画をたてられないという。
日本は戦後、旺盛な住宅需要に応えるためスギなどの植林を進めたが、人工林は間伐などの手入れが不可欠。一方、最近は林業従事者の高齢化や担い手不足で手入れが行き届かず、荒れている森林も少なくない。
 それに関連して、浦口さんはこんな問題提起も口にする。「日本の森林はユニークで、とにかく間伐したいという政府の思惑を反映していますが、間伐すると二酸化炭素が減るのでしょうか」
 植林は吸収源を新たに生み出す。一方、間伐は残すもの以外を間引き、特定のものだけを育ちやすくする。林野庁担当者は、厳選した木を太く育てていくものであり、国際的なルールが、手を入れるといった人為的な取り組みを肯定的に認めていると説明する。
 さまざまな課題を抱えながらも、森林クレジットの取り組みは定着し、発展していくのか。地球温暖化の対策は待ったなしだ。
(浅井秀樹)

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