民有人工林の手入れどこまで!? 市町村が直面する「森林経営管理制度」の実態
最近の豪雨による洪水被害などで、森林の適切な手入れが大切だと再認識されつつある。しかし、民有の人工林では所有者の高齢化などで管理意識が薄れ、所有者や森林の境界が不明確なところも少なくない。
そこで国は2019年4月に森林経営管理法を施行。手入れの行き届いていない森林については、市町村が所有者の意向を調査して林業経営者に委託するなどの森林経営管理制度が始まっている。その現状を関係者に聞くと、容易ならざる実態が見えてきた。
森林経営管理制度では、市町村が所有者に調査し、森林の経営管理を「任せたい」との意向を確認できれば、市町村がその委託を受ける。さらに、森林が林業経営に適していれば、市町村は林業経営者に再委託し、そうでなければ市町村が公的に管理するという仕組みだ。
林野庁によると、私有林は全国に約660万ヘクタールあり、そのうち、管理がどうなっているのかわからない森林が約3分の2あるという。まさにこれこそが、森林経営管理制度の「ターゲットになる」(林野庁担当者)。
具体的には「間伐作業が多い」(同)。そのほか、一部で植栽物の成長を阻害しているものの、除伐や、スギなどの針葉樹を広葉樹に植え替えるケースもあるという。
市町村が所有者の意向を調査する際、所有者がはっきりとしているところはまだいいほうだ。「相続登記されていない土地がけっこうあり、境界がわからない土地もある」(同)。各市町村には、森林経営管理制度によって、たとえば長くても15年間をめどに計画的に森林の把握をしてほしい、というのが林野庁の思いだ。
所有者の一部、あるいは、全部がわからない土地には特例措置が適用される。具体的には、戸籍から所有者の子孫など、現在の所有者とみられる人をさがすことになる。現所有者が見つからない場合は6カ月の公告を経て、異議申し立てがなければ同意があったとみなす。これによって、市町村が森林を手入れするなど土地の扱いを事実上、決めることができる。
栃木県鹿沼市の事例を見てみよう。人工林率が7割超、手入れ不足の私有林が約1万1000ヘクタールにも及ぶ。市では高齢化率の高い地区や、収益性を見込みにくい森林から手をつけ始め、「毎年600へクタールずつ、20年くらい」(市担当者)で進めたい考えだ。
対象となる年間600ヘクタールのうち、約400ヘクタールの森林は所有者の同意を得られている。ちなみに、「相続関係のごちゃごちゃしているところは外している」(同)という。
だが、スムーズに進むばかりではない。登記が実態を反映せず、所有者が不明な森林については、専門家1人とサポート1人で対応。鹿沼市の担当者は「公告のような複雑な手続きまでは手が回らない。(公告の手続きを進めるには)測量などで費用もかかり、資金も足りない」とこぼす。森林の「境界」の確定には関係者の同意が必要なだけでなく、測量のコストまでも負担しなければならない。
手入れが行き届いていない民有の人工林をどうするか、国土防災などの観点からも喫緊の課題になっている。
所有者が高齢化などで市町村に経営管理を委託してくれる場合はまだいい。所有者不明の場合、公告による特例措置が用意されているものの、先述のように公告にたどり着くまでには多大な時間と費用がかかる。限られた職員が戸籍から子孫などで所有権のありそうな人を見つけ出し、本人に意向を聞くプロセスだけでも道のりは長い。かりに該当者を見つけ出せたとしても、意向調査に協力・回答してくれるとは限らない。現場では今も、地道な作業が続いている。
(浅井秀樹)