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森林のない自治体は使い道なし? 「森林環境譲与税」で進む学校木質化、上下流連携

 国内に住所のある人ならばすべて、2024年度から1人年1千円が徴収される「森林環境税」。自治体には、その徴収に先行する形で19年度から「森林環境譲与税」が配られている。ただ、自治体には配布額を使い切れず、基金に積み上げているところも多い。自治体への配布額の約半数が活用されていないという。

 譲与税の使い道としては、①間伐や林業道の開設といった森林整備②森林整備を促進する人材育成や担い手の確保③森林整備を促す木材利用の促進や普及啓発━━とされていて、自治体にはその使途の公表が義務づけられている。

 こうした使い道に頭を抱えるのは、森林の少ない都市部に目立つものの、うまく活用しているケースも少なくない。いくつかの事例を紹介したい。

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瑞江第三中の図書館=江戸川区提供

 

 東京都江戸川区は人口が約69万人で、区内に森林がない。そんな区は、公共建築物などへの木材利用推進方針を策定。木材が断熱性や調湿性などに優れ、長期間に炭素を固定できる資材だとして、教育現場の“木質化”を推し進めている。

 20年度は瑞江第三中学校に約5500万円を投じ、国産木材を活用して図書館の内装を新しくした。オープンスペースには区が友好都市を結ぶ長野県安曇野市の木材などをあて、あたたかみのある空間につくりかえた。21年度は小岩小学校の大階段や図書館の内装をはじめ、小岩第二中学校の多目的スペースや小松川中学校の個別学習スペースなどにも国産木材をふんだんに使った。23年度予算案でも約7100万円の森林環境譲与税をフル活用する計画だ。

 「区内全部で100くらいある小中学校のうち、70校以上の改築を予定している」(区担当者)だけに、基金に積み上げているいとまはない。区の公共施設の建て替えなどにも活用していくという。

 茨城県神栖市は人口が約9万5000人で、森林面積はわずかしかない。21年度は森林環境譲与税の約900万円を海岸防災林の再生や保全にあてた。海岸防災林は飛砂や潮害から守ってくれるものだが、近年は松くい虫などによる被害が出ていた。譲与税で植栽イベントを開催し、堆砂垣(たいさがき)なども備えた。市担当者は「今後も引き続き、松くい虫の被害を受ける森林の再生をしていく」と話す。

 また、愛知県安城市は人口19万人弱で、市内に森林がない。そこで目をつけたのが河川を通じた地域間のつながりだ。市は長年にわたって、矢作川の最上流にある長野県根羽村の水源や森林を守ろうと“上下流”の連携を続けてきた。21年度は森林環境譲与税の約1500万円を活用して、子どもたちに木の文化に親しんでもらおうと、親子向けの交流事業「あつまれ ねばの森」を実施。森林が身近でない子どもたちが、根羽村産の木材で箱や表札、スプーンなどをつくるイベントとあって好評だったという。

 国内全体の森林環境譲与税は増えている。19年度の200億円から20、21年度には各400億円となり、22、23年度は各500億円。さらに24年度以降は600億円と増額が見込まれている。森林の恵みをあらためて見直す機会にし、有効に活用することが期待されている。

 (浅井秀樹)

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