「森林環境税」いかに活用するか 豊かな自然のため課題克服を
林業就業者が高齢化し、後継者不足で適切な維持管理が難しくなり、森林の荒廃が心配されている。豪雨などの災害から国土を守り、豊かな自然環境を後世に伝えていくうえでも、喫緊の課題といえる。
そんななか、「森林環境税」が2024年度から1人あたり年額1千円徴収される。“時限措置”だった東日本大震災における復興税特別税が終わるのと同時に、入れ替わる形で導入される。森林環境税がまさに「国民合意が得られやすいと考えられたのだろう」とみるのは、九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授だ。将来にわたって税を活用する対象として森林が選ばれたという。
一般にはあまり知られていないが、森林環境税の徴収を待たずに先行して「森林環境譲与税」の自治体への配布が、機構準備金を活用して始まっている。森林環境譲与税は19年度施行の森林経営管理法の財源として、セットでの配布がスタート。全国の市町村や、一部は都道府県に配布されている。ちなみに、この法で導入された森林経営管理制度は、森林所有者が管理できなかったり、放置されたりしている森林を市町村や民間事業者が代わって管理するものだ。
林野庁のホームページによると、森林は地球温暖化のみならず、国土の保全や涵養(かんよう)などを通して国民に恩恵を与えるものであり、森林環境税はそういった森林整備に必要な地方財源を安定的に確保するものだ、という考えにもとづいている。森林環境譲与税は補助金と違って、こうした趣旨につなげるためならば本来、自治体が柔軟に使えるのが大きな利点だ。
ところが、森林環境譲与税の配布は19年度が200億円、20、21両年度が各400億円である一方、自治体側の活用額率は順にそれぞれ31.5%、40.8%、54.3%。だんだん使われてきているものの、半分近くが未活用だというのが実情だ。森林整備に使うにも、所有者の確認など下準備を進め、林道をつくったり、木を伐採したりするには巨費がかかるため「税をためて計画している自治体もある」(林野庁担当者)とはいえ、森林の少ない都市部の自治体などは、未活用分を「基金」に積んで“様子見”状態も目立つ。
自治体への配布の割合(内訳)は、私有林の人工林面積で50%、林業就業者数で20%、人口で30%。森林のない都市もあるが、人口が多ければ一定の配布がある。佐藤教授はこうした人口による配布について「税の使い方としては効率が悪く、うまく回らない懸念がある」と指摘する。森林を念頭にしていなかった都市部の自治体が、にわかに担当部署をつくる必要に迫られるケースもあり、中規模程度の地方都市で森林が少ない自治体では、配布額が中途半端な金額にとどまると思い切った政策には使いにくいという事情もある。
配布の割合をめぐってはさらに、私有林の人工林面積で50%という部分にも問題があるという。「日本の森林所有は非常にかたよりがある」(佐藤教授)ためで、北海道や東北は国公有林が多く、私有林の人工林が少ない。私有林の人工林は日本の森林面積の約4割にとどまるが、九州では約6割を占めるといった“格差是正”も今後必要になるかもしれない。
とはいえ、森林の少ない自治体でも、発想を広げて地域住民と森林をつなげる試みも出ている。「河川」でのつながりに着目し、上流域の自治体と連携する動きだ。佐藤教授も「都市部には森林のことをよく知らない人もいるので、知るきっかけになってほしい」と期待を寄せる。
限られた血税をいかに地域のために活用するか。森林環境税という新たな税金をきっかけに、それぞれが自治体の取り組みをチェックするのはもちろん、地域が豊かになる知恵を絞っていく必要がある。
(浅井秀樹)