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自ら山を育てる林業へ ヒップホップにあこがれ渡米の若者がUターンで挑む

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自伐型林業に取り組む大谷訓大さん=本人提供

 

 鳥取県の南東にあり、岡山県に接し、中国山脈に囲まれた智頭町(ちづちょう)。町の総面積の9割超を山林が占め、樹齢300年にもなる人工林も残る。均等に詰まった木質や、桜色に染まる心材など、美しい智頭杉は内装材としても利用され、奈良・吉野や京都・北山などと並ぶ林業地とされる。

 「本格的に林業を始めたのは27歳のころ。自営でできる仕事をいろいろとさがすなか、いまの職にたどり着いた」

 海外からの“Uターン就職”の形で智頭町に戻り、林業を営んでいるのが大谷訓大さん(40)だ。

 土建業をしていた祖父が地元に40ヘクタールの山を購入し、父親は地元の森林組合で働きながらの兼業林家だった。そんな家庭で育った大谷さんは高校卒業後、大阪の専門学校で建築を学んでいた。ところが、将来への不安などもあって一念発起、「視野を広げたい」と、米サンフランシスコでホームステイを始めた。

 そこで熱中したのが、ヒップポップだった。1970年代のニューヨークが発祥とされる音楽や、独特のダンスやファッションによる黒人文化だ。「もともとヒップホップ文化が好きだった」という大谷さん。本場のパフォーマンスに触れるなどし、人生を切り開こうとする自立心も高まっていった。

 カナダのバンクーバー暮らしを経て帰国。鳥取に戻ってから、地元の山の存在を再認識するようになったという。

 大谷さんが取り組むのは「自伐型林業」だ。当初はそんな言葉も知らず、自身で山の間伐などをしていた。やがて「自伐型林業推進協会」の会員になった。

 「自伐型は自分で自分の山を世話する。一般的な(組織や団体などによる)大きな林業に比べて、山を育てる意味では持続性のある営み」だと力説する。

 自伐型林業は、過度な伐採はしない。作業用の林道は幅約2.5メートル以下。機械設備も小型で、30~40代の担い手も多くなってきているという。

 たとえば自伐型で使う機械の購入には2000万円ほどかかるものの、一般的な大きな林業の4分の1から5分の1程度で済む。「無理しなくても、まわしていける」と大谷さん。近年は、副業として参入するケースが目立ち、悪天候や雪などで入山しにくい時期は、別の仕事もできる。

 山だけに依存しない林業ともいえる。大谷さんは現在、社員1人を抱える。副業や独立を推奨していて、これまでに林業で独り立ちした社員もいる。

 さらに近年は、変化も出てきた。自前の40ヘクタールに加え、「いろいろな方から声をかけてもらい、頼まれる山もある」(大谷さん)。依頼される山林は契約年数にもよるが、100~150ヘクタールにものぼる。

 ヒップホップ文化にあこがれて渡米した若者が、いまや地元で自伐型林業の枠を超え、山林管理の新たな“パフォーマンス”に挑んでいる。

 (浅井秀樹)

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