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環境保全と安定林業の“二刀流” 「自伐型林業」働き手広がるか

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福岡県による「自伐林家」育成の研修(2021年度)=写真はいずれも同県提供

 

 ゾンビ林業――。通常の林業をこんな自虐的な呼び方で区分けするのは、自伐型林業推進協会の中嶋健造・代表理事だ。

 山林に適度な光が差し込み、下草などが繁殖するように、成長して混み過ぎた立木の一部を伐採する「間伐」作業。通常の林業は「標準の伐採期を50年と決め、50年になると一斉に皆伐(かいばつ)する」(中嶋さん)ため、木がすべて伐採された場所には後でまた植樹をしなければならない。これに対して自伐型林業は、10年くらいの間隔で間伐し、カットする量を調整しながら100年、200年と山林を維持していく。「長期的な視点で間伐を繰り返す林業」(同)だという。

 たとえば、スギの太さは、50年超でようやく厚みが目立つようになってくる。100年モノのスギは、50年モノよりも太さが5~7倍になるというのだ。

 けれども、通常のやり方だと、厚みを増してこれから良質の木に育とうとする前に切ってしまうことになる。「木が太る前に切るので(林業全体としての)採算が合わない」と中嶋さんは疑問を呈する。

 そんな採算割れの林業を支え続けているのが、国からの補助金だ。大型機械を導入する場合、購入費用が1億円だとしても、その8割の8千万円まで補助金が出るケースもある。機械の大型化によって山道も大きく整備しなければならず、多大なコストがかかりやすい。

 山は50年ごとの皆伐で表層崩壊のおそれがあり、作業のための大きな山道自体も崩壊しやすいリスクを抱える。いわば、以前に比べて、二重の意味で災害が起こりやすい状況になりつつあるというのだ。

 2020年7月の豪雨で、熊本県の球磨川流域は洪水が発生し、大きな被害を受けた。「このときの総雨量は以前とそれほど激増しているわけでないが、周辺の山の手入れの仕方によって土壌が脆弱になっていたのではないか」。中嶋さんはこう指摘する。

こうした防災の観点からも、自伐型林業は注目されている。そして、適正規模の山林を確保して、少しずつ間伐しながら安定した経営をめざすからこそ、自立した林業ができる、と期待されている。

 通常の林業では、「所有者」と間伐などの維持・管理をする「施業者」が分かれていることが一般的。間伐などは地元の森林組合といった専門の林業者に任せがちで、請け負った林業者は異なる現場を転々とし、同じ現場に携わることはほとんどない。自伐型林業推進協会の上垣喜寛・事務局長は「自伐型か、通常の林業かは、いい山をつくるかどうか、の違い」だと強調した。

 協会によると、全国では43自治体が自伐型林業を推進し、累計64自治体が自伐の支援を実施してきたという。

 福岡県は17年3月の農林水産振興基本計画で、「地域の特色を活かして農山漁村を活性化」する施策の一つに「自伐林家の育成」を掲げた。県が、自伐林家に対する安全講習会や技術研修などを支援するものだ。自伐林家は週末や仕事の合間を使うなどしてあまり負担なく間伐することができ、将来的にはこの活動が森林の荒廃防止につながる、としている。

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 県の研修は延べ約23日間にわたり、21年度までの4年間で37人が受講した。普段は会社員などをしていて、週末に「自伐林家」になるケースが多いという。働き手としての参入障壁が低いこともメリットだが、「育成できる人数に限りがある」(県林業振興課の担当者)ため、地域での中長期的な人材育成が欠かせない。

 こうした自治体などの取り組みが広がっていくのか。山の保全とも無関係ではない。

 (浅井秀樹)

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