動き出した「樹木採取権制度」 事業者の育成なるか
日本の国有林は、戦後の造林で成長した樹木の“利用”時期を迎えている。樹木を「伐(き)り、使い、植える」とする循環利用を根づかせ、意欲と能力のある民間事業者を育成できるのか。国有林を一定期間、安定的に採取する権利を事業者に設定できる「樹木採取権制度」の行方が注目される。
採取権制度は2020年に施行された。林野庁によると、21年度末から林業経営者との契約が始まったといい、実際に動き出した。
「そのためには、民有林だけでは安定した事業量を確保できないので、国有林でその事業量を確保するということです」と林業ライターの福地敦さんは解説する。民有林での木材供給を補完する形で、近隣の国有林から長期で安定して樹木を採取できるようになった。
国有林についてはこれまで、年度ごとに伐採の場所や時期などを特定し、入札で選定された事業者が立木を購入して伐採する仕組みだった。立木の購入面積は平均約20ヘクタールほどだったという。
この仕組みを基本としつつ、新たに追加されたのが採取権制度だ。事業者は国有林の一定区域で、10年を基本とする期間の「権利設定料」を支払って伐採できる。対象面積は地域の事業者が対応できる200~300ヘクタールとしており、大幅に広がった。事業者にとってはこの権利を得ることで、長期的な見通しを立てて人材や機械への投資がしやすくなる。製材や加工業者などとも連携し、木材を通じて地域に活力をもたらすことも期待されている。
林野庁の担当者によると、採取権制度は10年を基本とする契約ではあるものの、最長50年も認めているという。一般的に、造林から伐採まで約50年の周期ということが念頭にあるようだ。
もっとも、採取権制度の導入をめぐっては、当時の国会論議でも課題が指摘されていた。
最長50年の期間については、野党が「管理責任をあいまいにする」と懸念。さらには「大企業にとって有利な制度」だとし、地域の林業事業者が圧迫されるおそれもあると指摘した。しかし、事業者が確実な経営見通しを立てられることなどを理由に掲げた。
樹木採取権は「財産」として、農林水産相の許可があれば第三者に売買などして権利移転もできる。「権利行使に歯止めがかからなくなる」といった懸念に対して、政府側は、権利を譲り受けたものが当初の権利者と同水準に事業ができるかどうかを農水相が審査し「不適切」と判断すれば権利移転を認めない、などと説明している。
さらには、新制度で選定された事業者には「伐採」だけが権利の対象だ。伐採後の「植栽」までは義務づけられていない点も疑問視されたが、政府側は、植栽された樹木が事業者のものとなり、国が管理できなくなるのは適当でない、とした。国としては、契約で事業者に植栽を申し入れる方針で、植栽の費用は国が負担する見込みだ。
伐採面積が過大にならないように配慮することや、国が責任を持って植栽を実施することも新制度に盛り込むことになった。こうした国会論議を経て、関連法案は与党の賛成多数で原案通り可決、成立した。
「伐採から植栽までして1セットの話だと思いますが、伐採木を売っても再造林に使える資金が出てきません。いまは低コストの再造林をみんなで考えているときです」。前出の福地さんはこう話し、植栽が義務化されず、罰則規定もないことを懸念する。
課題を残しつつ、新制度は動き出した。
(浅井秀樹)