庭の“緑化”で多様な生物と暮らすまちづくり ハウスメーカー「5本の樹」の挑戦
まち全体を緑化しようと、20年以上も続く取り組みがある。積水ハウスの「5本の樹」。家を建てた際に、庭木の「3本は鳥のため、2本は蝶のため」という考え方にもとづく。
具体的には、日本を五つの気候区分にして、それぞれの地域に適した庭木を選んで植える。鳥や蝶などが来てくれることを基準とし、改良品種ではなく、日本の原種か住む地域の在来種にこだわるのが特徴だ。単に「緑を植えればいい」といった考え方とは大きく違う。
事業は2001年にスタートし、当初は年約50万本を植える状況だったが、近年は年約100万本に倍増。20年までに累計1709万本を植栽したという。「東京都の街路樹が(低木を含め)だいたい100万本なので、その17倍になります」と、積水ハウス環境推進部の八木隆史さんは説明する。
もちろん、1軒あたりすべて5本の庭木を植えられるわけではない。「『5本の樹』はあくまでもコンセプトであって、1本から植える方もいます。高木、中木だけでなく、サツキやツツジなどの低木も含まれます」(八木さん)。それでも実際、庭の植栽は1軒あたり十数本になることが多い。着工が相次ぐ都市部で本数が多くなる傾向だという。
同社のグループで、造園緑化を専門とする会社が植栽を担う。かつては家を建てる施主の希望もあって、庭には見栄えのする花や変わり種の外来種を植えがちだったという。だが、施主だけでなく庭木の調達業者などにも「5本の樹」の考え方を理解してもらい、地域に根ざした在来種を植えるように努めている。
小さな庭の植栽であっても、たくさん集まれば地域に生態系ネットワークを生み出し、生態系の保全につながっていく━━。積水ハウスはそう期待しながら取り組みを続ける。
一方で、同社は「5本の樹」の“効果”をデータで示そうと動き出している。
自社の分譲地にどれくらいの生き物が来ているのか、そんな視点で検証する方法を調べあぐねていたときに出会ったのが、琉球大学で生物多様性の研究をする久保田康裕教授だった。
生き物との相関性がわかる裏付けデータを久保田教授から提供されたことにより、同社が求めていた調査に光が差した。生物多様性の取り組みはもともと数値で効果を示すことが難しいが、都市部を中心とした取り組みが定量的に評価できるようになると期待する。
そのうえで、八木さんは次のようなシミュレーション結果を明らかにした。「年間の国内住宅着工戸数の3割くらいで(『5本の樹』と)同じような活動をすると、当社だけと比べて2倍くらいの効果があります」。生態系保全の歩みは、積水ハウスだけでなく、ハウスメーカー業界全体で進める必要性を強調した。
庭の植栽は、住む地域の自然環境の一部をなす。“ちりも積もれば山となる”ではないが、個々の庭がネットワークのようにつながることで、生物多様性に富んだ環境が実現していく。
(浅井秀樹)