主役大木“調達”、表舞台に出ない努力 諏訪・御柱祭
長野県の諏訪地方では数え年で7年に一度(実際は6年ごと)の「御柱祭」が今春に開催される予定だ。日本の“三大奇祭”の一つで、正式名称は「式年造営御柱大祭」。1200年以上の歴史があるとされる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響が心配されるが、コロナ前は大勢が詰めかける行事だ。
諏訪大社は上社と下社に各二つ、合わせて四つの神社が鎮座する。御柱は各社それぞれ4本、計16本からなる大木だ。樹齢200年を超えるとされるモミの大木で、直径約1メートル、長さ16メートル超、重さ12トンにも及ぶ。氏子たちが4月から5月にかけ、モミの大木を人力で運び、神社の四隅に立てかけるもの。急な坂を氏子が大木にまたがりながら下る「木落とし」などの見せ場もある。
ただ、毎年切り出すわけではないものの、こうした大木が枯渇する懸念が出ていたという。そこで地元の氏子たちがここ数十年、苗木の植林や整備を進めてきた。
そもそも御柱16本をどこから調達しているのか、地元関係者以外にはあまり知られていない。毎回、同じというわけではないそうだ。
今回の御柱は、上社の8本が御小屋山(おこやさん、茅野市)の諏訪大社の社有地から、下社の8本が東俣(ひがしまた)国有林(下諏訪町)から切り出された。上社の8本の切り出しが御小屋山に戻ったのは30年ぶりという。その間は御小屋山に用材が見つからなかったという。ちなみに、前回は上社の8本を辰野町横川渓谷の国有林から切り出し、前々回は下社と同じ東俣国有林から16本すべてを調達していた。
今回使う御柱は、すでに2021年秋に切り出しされた。「今回もりっぱな木を見つけられた、と氏子のみなさんが喜んでいた」と話すのは、諏訪地方観光連盟の担当者だ。氏子たちは何年も前から山に入り、くせのない“素直な木”を見つけ、目星を立てているそうだ。木を選ぶ際には切り倒すときのことも考え、他の木を犠牲にせず、作業する人がけがをせず、運び出しに安全なルートを“見立て”の段階から検討しているのだという。
林野庁南信森林管理署によると、御柱を提供する2カ所の国有林は、下諏訪町の東俣が383ヘクタール、辰野町横川が14ヘクタール。「祭りの2年くらい前にどの木を切り出すか、仮見立て、本見立てがある」(担当者)
氏子たちの苦労はそれだけではない。地元には野生のシカが生息し、新芽や木の樹皮が食べられる被害も出ている。そのため、植林した苗木を網で囲うなど、手入れをしながら幼木を育てている。
御柱の切り出しはこれまで斧を使ってきたが、今回はチェーンソーも使われた。「近年ではまれなこと。作業する人数を絞り、時間を短縮するため」(前述の観光連盟担当者)だといい、伝統行事にもコロナ禍が変化をもたらした。
御柱祭をはじめ、歴史的な木造建造物や伝統工芸などを継承していくには木材が欠かせない。国有林を一定期間活用できる制度「木の文化を支える森」が文字どおり支えている。こうした森が全国各地に24カ所(20年3月末時点)、御柱祭の関連でも「御柱の森」(下諏訪町)や「御柱の心をつなぐ森」(辰野町)がある。作家の故・立松和平氏の提唱を受けて、02年から国民参加型で制度が整備された。
御柱祭といえば、勇壮な木落としなど、大木を大勢の氏子たちが引いて運ぶ場面ばかりを思い出しがち。その御柱の調達ができなければ開けない。華やかな行事の影に、地元関係者の目に見えない努力があること を思い起こしたい。
(浅井秀樹)