10月の絵暦
筆柿。
パキリとかじると、真っ黒な果肉。
タンニンの斑点が、甘さのバロメーター。
皮ごと食べる。
3歳くらいのことだったろうか、
父が、一口残ったそのヘタに、木綿糸を結んでくれた。
庭の池にポチャン!
赤と黒のまだら模様の大きな鯉が、悠然と近づき、その柿を吸い込んだ。
グイン、グインと、ものすごい力で、糸を持つ手を引っ張っていく。
怖くて、糸を放した。
ワーン!と泣いた。
拙作『黄色い竜』のきっかけになった、おぼろげな思い出。
(村上康成)
※カレンダー『森へようこそ2023』(ユニオンサービス)より
■お知らせ
◇ちひろ美術館セレクション「2010⇒2021 日本の絵本展」
・2024年1月14日(日)まで開催中/ちひろ美術館・東京
〈2010年以後を象徴する日本の絵本30冊〉
東日本大震災をはじめ激動の2010年代。子どもを取りまく環境も大きく変化しました。画家たちは新しいテーマや表現に挑戦し、絵本を通して今を生きる子どもたちに向けたメッセージを発信し続けています。絵本の世界では、新しい世代のつくり手たちのめざましい活動も印象づけられました。また2010年代を通して、「3.11」や「福島」を取りあげた絵本や真摯にいのちと向き合う絵本、過去の戦争に焦点をあて、平和の在り方を問う絵本など、時代をあらわす作品も生まれました。
ちひろ美術館では10年ごとに時代を代表する絵本を紹介する展覧会を継続しており、今回は4回目となります。3年の延期を経て開催した本展覧会では、時代に求められた多様な表現に焦点をあて、10年から21年に出版された作品から、注目を集めた絵本や、今後も活躍が期待される作家の作品を紹介します。
◇児童文学『黄色い竜』(徳間書店)を販売中。田んぼ、小川、湖など身近な自然の風景のなかで生きる、少年のひと夏の清新な物語。文字で描くことに専心した村上康成“初”の児童文学。
◇2024年度カレンダー 『森へようこそ』を販売中。
https://www.y-murakami.com/products/detail/207
■プロフィール
むらかみ・やすなり/1955年岐阜県生まれ。創作絵本、ワイルドライフアートなどで、独自の世界を展開する自然派アーティスト。『ピンクとスノーじいさん』『プレゼント』『ようこそ森へ』などでボローニャ国際児童図書展グラフィック賞、『ピンク!パール!』でブラチスラバ世界絵本原画展金牌、『なつのいけ』で日本絵本賞大賞などを受賞。絵本に『ピンク、ぺっこん』『石のきもち』『さかなつりにいこう!』『リュックをしょって』『まっている。』などの他、エッセイに『水ぎわの珍プレー』、児童文学に『黄色い竜』など多数。森林文化協会の「森の親善大使」でもある。
村上康成BREEZINGオフィシャルストア https://www.y-murakami.com/
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ブログ「ファン通信『風』」 http://www.y-murakami.com/blog/?p=849