「持続性担保された木材に価値を」再造林経費織り込んだ希望価格で売買の立木取引サイト登場

立木取引システムのウェブサイト
持続可能な林業のためには、木材を売った際の森林所有者の収入を増やすことが欠かせない。そんな問題意識から一般社団法人・日本林業協会など関係団体がインターネット上に「立木取引」のウェブサイトを設立した。売り手の山林所有者が、伐採跡地に植林する再造林や初期の管理に必要な経費も織り込んだ「希望価格」で出品しているのが大きな特徴だ。
国内の木材価格は1980年ごろをピークに長期低迷が続いている。林業白書によると、森林所有者が販売する山元立木価格の全国平均(2023年)は、スギ1本(1立方㍍)で4361円。国産材の利用増加などを背景に、2010年代の1本2千円台よりはわずかに上昇しているものの、なお低い水準にある。
白書は、植えて50年たつスギの人工林を伐採した場合の試算を紹介しており、立木を売った森林所有者の販売収入が1㌶あたり137万円。一方で、再造林やその後の雑草の下刈にかかる初期費用は1㌶あたり275万円と、採算が取れない現実を示している。白書は「丸太の販売単価の上昇に加え、伐出・運材や育林の生産性の向上、低コスト化などにより、林業経営の効率化を図ることが重要な課題」と指摘している。
また、最終的に住宅に使われる木材製品の価格に比べて、立木価格が非常に安くなっており、複雑で多層化している製品加工、流通過程も課題となっている。
こうした状況を踏まえて、日本林業協会をはじめ森林・林業・木材産業の関係6団体でつくる一般社団法人・国産材を活用し日本の森林を守る運動推進協議会などが、2024年12月にサイト「立木取引システム」を開設した。
https://www.rinkikyo.or.jp/ryuboku/index.php
サイトでは出品されている森林の位置や広さ、樹種、植えてからの年数とともに、伐採後の再造林の経費や一定の利益を見込んだ希望価格を提示している。
現在は、高知県仁淀川町と福島県古殿町にあるスギ人工林の2物件が出品されている。希望価格は仁淀川町が立木1立方㍍あたり約9400円、古殿町が同約14000円と、通常の立木価格の3~5倍になっている。古殿町の森林は緑の循環認証会議(SGEC)の認証林になっており、認証を受けるのにかかった経費なども織り込んだ価格になっている。
運営に携わる日本林業協会の肥後賢輔事務局長は「このサイトで掲載している木は高いと思うかもしれないが、伐採後に再造林することを所有者が約束している森林だ。環境に貢献することに新たな価値があると考えている」と意義を語る。

サイトを前にする日本林業協会の肥後賢輔事務局長=東京都文京区
コストがユーザーの住宅選びの大きな要素になっているなか、国産材の大きな需要である住宅メーカーは、低コスト化を図るために流通過程の簡素化や系列のプレカット工場で大量に住宅製材を加工するといった企業努力を重ねている。大口購入元だけに価格決定権も握っている。こうした状況のなかで、「新たな価値」を持つ木材の購入への理解が進むのか。
肥後さんは、脱炭素や持続可能な経営への社会の関心が高まっていることに期待を寄せる。
例えば、国産材を使ったビルを建てる際、「単に木造化するだけでなく、日本の森を守るための貢献をしながらビルを木造化することは、企業にとってもほかの木造ビルと差別化できるのではないか」と語る。
国内の民有林は小規模な森林が多いことや、長年手入れがされていないことや相続で周囲との境界が分からなくなっている森林も多いことが、取引上の課題になっている。この点についても、肥後さんは「立木の販売価格が上がれば、森林所有者も売れるように境界を確定させよう、まとまった規模の森林として売れるように調整しよう、といった機運が出てくるかもしれない。国産材の課題となってきた供給側の問題の改善につながるのではないか」と期待する。
森林を出品している自治体の一つ、高知県仁淀川町は町の約9割が森林で、約2万㌶あるスギ主体の民有林の人工林は大半が切り時を迎えている。高齢化と人口減少が進むなか、町外から若手の林業の研修生を積極的に受け入れて、持続可能な林業の道を模索している。また、町内で伐採された木材はほとんどが町外の製材会社に持ち込まれていたのを、町内で製材する量を増やす取り組みも進める。
農林課の奥村誠課長補佐はこのサイトについて「山の価値を見直すという考え方に、ぜひ協力したいと思った」と話す。サイトに物件情報をアップして取引につながるかどうかは未知数の部分もあるが、「サイトを見て関心を持った企業が現地を視察してくれて、そこから接点が生まれるといった効果も考えられる」と期待を寄せる。
(松村北斗)