脱炭素 現場から

人手不足の林業を「川中」「川下」の製材、住宅産業が支援

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カラマツが育つ二和木材の自社林=盛岡市新庄中津川

 人口減少や木材価格の長期低迷で衰退する林業を、「川中」と呼ばれる製材業や、「川下」と呼ばれる住宅産業が支える動きが各地で出ている。間伐や伐採がされない放置林も増えるなか、生産者である林業と、需要者である製材、住宅産業の関係を強め、持続的な林業を実現しようという取り組みだ。

 今年4月、「木分協・岩手」という合弁会社が岩手県滝沢市に設立された。成長した木の伐採、跡地への植林、下刈りなどの保育作業が仕事の内容で、3人の入社が決まっている。

 この会社は住宅メーカーの三栄建築設計、オープンハウスグループ、ケイアイスター不動産など計62社で構成する「日本木造分譲住宅協会」と、協会の取引先の一つである製材会社・二和木材(岩手県滝沢市)が立ち上げた。

 同協会は2021年、国産材の使用率を上げ、使った量を植林して脱炭素社会を目指そうと設立された。加盟社が使う国産材の流通の窓口の役割を果たしており、協会での国産材の取扱い量は月平均4千立方㍍(製品ベース)という。協会事務局は「川上、川中、川下まで『顔の見える』サプライチェーンを構築したい。それぞれが連携することで国産材の安定供給が実現すると考えている」とコメントする。

 一方、二和木材は滝沢市や同県矢巾町に製材工場があるほか、滝沢市の隣の盛岡市などに計約300㌶の自社保有林がある。従業員約50人のうち林業に16人(伐採班12人、植林や造林を行う班に4人)が関わっている。

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二和木材の自社林では伐採後に再造林が行われ、カラマツの若い木が育っていた=同

 

 岩手ではスギ、アカマツとともに一般的なカラマツが自社林の中心で、同社で製材に使う丸太の約4割が自社林、残りは地元の伐採業者などから仕入れている。

 木分協・岩手の社長も務める二和木材の小笠原清貴社長(43)は「協会は国産材活用による間接的な支援に加えて、もう少し直接的に林業を支援したいという思いがあった。林業会社が必要だが自分たちにノウハウはない。そんな時に弊社に林業に関わる部隊があることを知り、声がかかった」と経緯を語る。

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二和木材の小笠原清貴社長=岩手県滝沢市

 岩手県の資料によると、カラマツ(直径14~28㌢)の1立方㍍あたりの丸太価格は21年で1万9300円。1975年の同2万400円とほぼ同レベルで、75年の半額以下の21年1万3400円に落ち込んでいるスギ丸太(同14~22㌢)より価格は堅調だ。それでも、人口減少もあって岩手県内の林業従事者は減少傾向が続いている。

 こうしたなか、住宅メーカーと連携する一番のメリットは全国規模で求人を行えることだと小笠原社長は話す。二和木材の求人は県内に限られていたが、木分協・岩手は協会で広く求人を行い、26歳から40歳まで北海道、関東、岩手から人材を採用できた。「林業の経験がない人もいるが、いい意味で多様な人材を確保することができる」

 移住を伴う人もいるため、3人は今年度中に順次入社。当面は技術を身につけるため、二和木材に出向する形を取り、伐採、植林、下刈りなど幅広く知識と経験を積む計画だ。小笠原社長は「協会は植林への資金援助なども視野に入れており、川下の住宅産業が山を支えてくれることは意義が大きい」と語る。

 

 

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トーセンの本社工場=栃木県矢板市

川中が維持困難な山林を買い取り管理

 「川中」の製材会社が山林を購入し、伐採後に再び植林する「持続的林業」を実践する取り組みも出ている。

 製材会社・トーセン(本社・栃木県矢板市)は、所有者による維持管理が難しくなっている小規模な山林を買い取ったり、森林の管理を受託したりして、製材会社自体が山林経営を行う事業を2012年から続ける。

 「山林活用.com」。トーセンのウェブサイトにはこんな名前の専用サイトがあり、山林の買い取り、管理受託について紹介している。自身の高齢化や、所有者の死去による相続で山林を維持できなくなった所有者や親族から、電話やメール、サイト経由で買い取りの相談が寄せられる。

 「将来も固定資産税を払い続けることを考えれば、安くても土地付きで買い取ってほしい」「自分が近く入院するので、その前に買ってほしい」。依頼者から切実な声を聞く、と担当者は話す。

 買い取りは最低1㌶が目安だ。トーセンの社員が現地を訪れて、生えているスギやヒノキの状態、伐採して林道までどれくらいのコストで運び出せるかなどを確認し、買い取るかどうか判断する。「買い取れるのは5件に1件くらい」と東泉清寿(とうせん・せいじゅ)社長(70)は語る。

 買い取り後は、国の森林経営計画制度を活用して、伐採、植林、下刈りなどの保育作業についての計画を同社で作成、提出する。計画に基づく伐採、植林は、国や県の補助や、税金の控除が受けられる。

 同社の森林経営計画の対象林は計約千㌶にのぼる。約半分の約500㌶が買い取った自社林、残り半分は委託を受けた山林という。その数は計約100カ所。おそよ50㌔圏内にグループの製材工場がある山形、新潟、福島、栃木、群馬、茨城、千葉、埼玉各県にある。

 この約1千㌶の山で伐採された丸太は、同社の製材工場で1年に使う丸太(40万~50万立方㍍)の約1割を占めている。

 買い取りを始めたのは、製材に必要な丸太の安定確保のためだ。「我々は板前のようなもの。まな板に魚がないと仕事にならない」と東泉社長。同じ地域に製材業者が多くあることもあり、原木市場から丸太を購入するだけでは、波が大きかった。自社林からの丸太があれば、そのムラを緩和でき、流通コストも削減できる。5年ほど前から買い取りや受託にとくに力を入れるようになったという。

 同社は、各地にある小規模工場で製材した製品を大規模な拠点工場に運び、乾燥工程や柱や板といった完成品に仕上げる仕組みを構築している。工場は提携先を含めて計約30カ所もある。「母船式木流システム」と東泉社長が呼ぶこの方式によって、多くの製品を工場でストック、住宅産業など取引先に需要に応じた製品を絶やさずに安定供給できるようにしている。丸太の確保は安定供給にもつながる。

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大規模な「母船」となっているトーセンの大田原工場=栃木県大田原市 トーセン提供

 

 また、脱炭素やカーボンニュートラルの実現が社会課題となるなか、伐採や製材で生じるチップを使ったバイオマス発電所と小規模製材工場を隣接して設け、木材資源やエネルギーの有効利用をめざしている。

 「我々は山を管理し、製材のほか、電気や熱といったエネルギーも活用する集約した一つのモデルを作りたい」と東泉社長は熱く語る。

 小規模な山林が点在すると効率が悪く、コストがかかる。そこで同社は1カ所を取得すると、隣接する山林の所有者にも買い取らせてもらえないか声をかけて、集約と効率化を図っている。伐採や植林、保育は伐採、造林を行うグループ関連会社が行ったり、森林組合や外部の伐採業者に依頼したりする。

 一方、自社で山林を所有すると長期的にコストがかかる。「我々は本来製材業だ。自社林や管理受託林は使う丸太の20㌫でいいのではないかと考えている」と率直な思いも口にする。

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製材やエネルギー利用の循環型モデルを作りたいと語る東泉清寿社長

 ネックは境界未確定や、所有者不明の民有林が多いことだ。従事者が減り、世代交代が進むなか全国的に林業が直面している課題だ。「手入れがされない施業放置や所有者不明の山林が増えるなか、どのエリアで持続的に林業を続けていくのか、どこを自然林に戻していくのか。境界未確定を速やかに解消するにはどうすべきか。国はより積極的に方針を示してほしい」

 (森林文化協会編集長 松村北斗)

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