脱炭素 現場から

「川上」の収支改善の道は 一気通貫の流通でコスト減 全森連副会長に聞く

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林業育林経営の課題などを話す肱黒直次副会長理事=東京都千代田区

 森林組合の全国組織・全国森林組合連合会の肱黒(ひじくろ)直次副会長理事は、林業育林経営の一番の課題は、「川上」と呼ばれる森林所有者にもたらされる収益が、住宅メーカーなど「川下」の木材製品価格に比べてあまりに少なく、経済的に立ち行かないことだと指摘する。改善に向けた方策を尋ねた。

 

 新型コロナの流行を背景に、世界的な木材価格の上昇と供給不足が起きた今回の第3次ウッドショックで、国内の丸太の価格もわずかであるがコロナ前より一時的に上昇した。では、森林所有者の取り分が増えたかといえば、そうではない。

 立木の伐採で、森林所有者は立木の売却益を得るが、作業を委託した伐採業者や森林組合の費用、そして運搬費用がかかる。丸太の値段が上がっても、林道のそばの運びやすく搬出コストが安くて済む場所の木ではなく、従来は採算面から伐採できなかった、道から離れた所の木が伐採されることになった。結局そこでは、値上げ分は搬出コストと相殺され、山に残る金は増えない構図になっている。

 また、林業や木材産業は流通経路が多層化しており、複雑だ。多くの商社や業者が介在する分、コストやマージンがかさむが、小規模な事業者が多いので、構造改革は進みにくい。これも、森林所有者への還元が増えない理由だ。

 そうしたなか期待しているのは、都市(まち)の木造化推進法を背景に、ゼネコンがコンクリートの代わりに木を中高層建築で使い始めていることだ。ゼネコンが「川上」から直接立木や丸太を購入し、加工、活用する流れが生まれている。既存の流通経路を変えていくことは難しいが、バイパスとなる新たな流通経路ができていけば、中間コストを省き、川上の収益を増やせるのではないか。

 たとえば三菱地所、竹中工務店、地元企業などが鹿児島県に設けた新会社は、丸太を買い入れ、製材、住宅用建材へのプレカットまでを一気通貫で行う取り組みを始めた。流通コストを極力減らし、1棟1千万円の住宅を実現している。先行する欧州では、CLT(直交集成板)の工場でプレカットまで行い、トラックで住宅の建築現場まで運んでいる。これに近いモデルだ。

 「林業復活」のためには、経済的に循環できる大規模な林業生産地は市場直結型の流通を新たにつくることが必要だ。

 同時に、経済的に成り立ちにくい場所の森林管理をどのように行っていくかも大きな問題だ。所有者がこれ以上お金をかけて手入れできない、所有者が世代交代して地元にいないといった放置人工林は、放置したままではなく、ある程度手を入れて、自然林に誘導していくことが必要になる。

 所有者ができない場合、税金を使って市町村が行うより方法はない。2019年に施行された森林経営管理法に基づき、所有者の委託を受けた場合、市町村が森林管理を受託できるようになった。この制度と、財源としての森林環境税を有効に活用していくことが必要だ。

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スギの民有林。人口減少や所有者の世代交代が進むなか、維持が課題となっている=秋田県五城目町

 一方、林野庁は21年に決定した森林・林業基本計画で、スマート林業や高性能林業機械を活用し、収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」を打ち出している。ただ、国内のどの地域で、どのような林業地をつくっていくのか具体像が見えてこない。

 たとえば、九州の宮崎県南部だと、スギの成長が早く、森林所有者の収支はプラスだ。伐採により300万円程度が所有者に渡せているという。一方で、全国的に見れば国から造林、下刈りなどの保育作業に補助金をもらっても収支が赤字で、林業経営が成り立たない地域が多数を占める。

 森林組合も、造林や保育作業を受託しても、所有者からお金をもらうことが難しくなっている。県や市町村、関係者が拠出した基金による上乗せ助成や、森林組合がほかの事業で上げた利益をもとにした独自補助により、所有者負担なしで造林や保育ができるようにしていることが多い。組合も適正な価格で受託できれば健全な経営ができるが、それができないのが実情だ。組合数も現在約600と減少している。

 重要なのは、地域の事情に応じた林業ができることだと考える。人口が減少していくなかで、大市場向けの「大きな林業」だけでなく、流域の中で、上下流の市町村が連携して、自伐林家や共有林で伐採した木材を地元で製材し、活用する「小さな林業」も再度、形づくっていくべきだ。また、市町村有林や学校林などでは、皆伐ではなく、成長した木を選んで切る「非皆伐施業」という道もある。スイスで始まった照査法という施業法などを応用して、緩やかに生産を続けながら、森林を維持・保全していくことも可能だ。

 (聞き手・構成 森林文化協会編集長 松村北斗)

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