時評

トランプ大統領の反気候政策にもかかわらず、 実はアメリカで再生可能エネルギーが拡大している

 トランプ大統領が2025年1月に再就任して以降、アメリカの連邦レベルでは化石燃料増産や環境規制緩和を志向する「反気候変動」的な姿勢が強まっています。それにもかかわらず、現実のアメリカの電力部門では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)が拡大しています。

数字で見る2025年の再エネ拡大の実態
 米エネルギー情報局(EIA)の「Electric Power Monthly」[1]によれば、2025年のアメリカの電力供給に占める再エネの比率は約25.7%に達し、24年の24.1%からさらに伸びています。風力・太陽光・水力・バイオマス・地熱を合わせた「再エネ全体」が、すでに電力供給の4分の1超を担う規模になっています。
 同じくEIAの分析によると、2025年の風力発電は64,000″ GWh” (1GWh=10億ワット時、前年比約3%増)、ユーティリティ規模の太陽光発電は296,000″ GWh(” 前年比約34%増)となっており、屋根上などの小規模太陽光は93,000″ GWh” (前年比11%増)で、太陽光全体は約389TWh(1 TWh = 1兆ワット時)と推計されています。風力と太陽光を合計すると、2025年には約760TWhを発電し、アメリカの総発電量の17〜19%程度を占めるまでに拡大しています。
 このように再エネ全体(風力・太陽光・水力等)では、2025年にアメリカの電力の25.7%を供給し、石炭、原子力をすでに上回る水準に達しています。天然ガスは依然として最大の電源ですが、その発電量は2025年に前年比3.3%減少しており、再エネが電源構成の中で相対的な存在感を高めています(図1)。

(図1)米国での発電容量の状況

2025年の新規設備導入はソーラーと蓄電池が主役
 EIAの「Today in Energy」[2]による2025年8月時点の分析では、2025年にアメリカで追加される予定の新規発電設備容量は64GWで、その半分以上が太陽光とされています。そして2025年上半期に追加されたユーティリティ規模太陽光は12GW、下半期に計画されている太陽光追加容量は21GWで、年間合計33GWの太陽光が新設される見込みとなっています。これは、2025年の新規電源容量の過半を太陽光が占めることを意味します。残りは主に蓄電池、風力、天然ガス火力であり、石炭火力などの新設はほぼ見られません。
 同じ分析によると、2025年上半期に追加された蓄電池容量は5.9GWで、新規電源容量の約26%を占めています。特にテキサス、アリゾナ、カリフォルニアで大規模な蓄電池プロジェクトが進行しており、変動型再エネの大量導入、系統の柔軟性向上を支えるインフラとして、蓄電池が急速に拡大しています。
そして2026年には、米国では、電力需要の高まりを受けて、今年、過去最高となる86GWの新規電源計画がありますが、その51%は太陽光、28%は蓄電池、14%は風力で、合計9割超の新規電源は再エネと見込まれているのです(図2)

(図2)米国の新規電源の9割超は太陽光・蓄電池・風力 (出所)U.S. Energy Information Administration, Preliminary Monthly Electric Generator Inventory, December 2025

テキサス州が突出している
 2025年に追加された太陽光容量の約27%(3.2GW)がテキサス州に集中しており、さらに下半期には9.7GWの太陽光がテキサスで新設される計画です。テキサスはすでにカリフォルニアを抜いて、ユーティリティ規模太陽光容量で全米トップとなっています。
 テキサスは石油・ガス産業の中心地でありながら、風力、太陽光、蓄電池のいずれでも最大級の投資が進んでおり、「化石燃料の州」が再エネ拡大の先頭を走るという逆説的な構図が生まれています。

なぜ再エネがトランプ大統領の反気候政策にもかかわらず伸びているのか?
 トランプ再就任後の政治的レトリックや環境規制緩和の方向性は、化石燃料を優遇し、気候政策は後退しているように見えます。それでも再エネが拡大し続ける背景には、どのような要因があるのでしょうか。
 その第1は、再エネが「最も安い新設電源」となっているという経済合理性にあります。
 風力・太陽光の設備コストは過去10〜15年で劇的に低下し、多くの地域で「新しく電源をつくるなら、再エネが最も安い」という状況が定着しています。すなわち、太陽光のLCOE(均等化発電原価:発電にかかる総コストを発電量で均等化した指標)は2010年代初頭比で70〜80%程度、風力も40〜50%程度低下し、天然ガス火力と比べても競争力が高い水準です(国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)等)。この「経済合理性」が、連邦政府の政治的立場にかかわらず、電力会社、投資家、企業(RE100[3]の加盟企業など)を再エネ投資へと駆り立てているのです。
 第2は、州政府や自治体の独自の政策と市場設計です。
 アメリカは連邦制であり、エネルギー政策の多くは州レベルで決定されます。
 例えば、カリフォルニア、ニューヨークなどは、再エネ比率目標やRPS(再エネ義務化制度)を維持・強化し、テキサスでは、系統整備と市場設計(卸電力市場)を通じて、風力・太陽光投資を強く誘引しています。トランプ再就任後も、これらの州政策は「連邦の空白を埋める形」で継続しており、むしろ再エネ拡大の主役は「州+市場」に移っています。連邦政府が反気候的な姿勢を示しても、州レベルの制度と市場インセンティブが再エネ投資を支え続けているのが実態です。
 第3はインフレ抑制法(IRA)など既存政策の「慣性効果」です。
 バイデン政権期に成立したIRAは、太陽光・風力・蓄電池・EVなどへの税控除、クリーン電源投資への長期的なインセンティブ付与、などを制度化しました。これらは一度法制化されると、政治的に完全撤回するには大きなコストと時間がかかります。2025年時点でも、既に認可済みのプロジェクト、長期PPA(電力購入契約)、投資家のポートフォリオがIRAの前提で動いており、連邦政治の変化が直ちに再エネ投資を止めることはできません。「政策の慣性」と「契約の慣性」が、再エネ拡大を下支えしているのです。
 第4には、企業や金融市場の脱炭素ドライバーがいまだ存在していることです。
 GAFAなどの大企業は、RE100 、SBT(科学的根拠に基づく排出削減目標)、ESG投資[4]の要請、などに応える形で、再エネ電力の調達を急速に拡大しています。再エネプロジェクトの立場からは、データセンター、物流拠点、製造拠点などでの長期PPAは、安定収入源となり、金融市場からの資金調達を容易にします。連邦政府が化石燃料を優遇しても、グローバル投資家や多国籍企業は「脱炭素」を前提に意思決定を行っており、このグローバルな資本の論理が、アメリカ国内の再エネ拡大を後押ししています。

トランプ政権の反気候政策による「逆風」と今後のリスク
 とはいえ、反気候変動的な連邦政治が再エネ拡大に与える影響は無視できません。現実に2026年には、政権が5つの主要な洋上風力プロジェクトの許可を取り消したため米国で風力の導入が減少すると予想されています(ただし、トランプ政権の洋上風力阻止の試みは法的な挫折に直面しています)。
 今後のリスクとしては、以下の点が懸念され今後の動向が注目されます。
 環境規制の緩和: 化石燃料開発の許認可が容易になり、ガス火力新設が再エネと競合する可能性。
 IRA等のインセンティブの縮小・改変: 税控除の見直しや予算削減が行われれば、再エネ投資の採算性に影響。
 送電網整備・許認可プロセスの遅延: 系統増強や新規再エネプロジェクトの許認可が政治的に遅れれば、拡大ペースが鈍化。
 (松下和夫 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)

[1] https://www.eia.gov/electricity/monthly/

[2] https://www.eia.gov/todayinenergy/

[3] 事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際的なイニシアティブ

[4] 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの非財務要素を考慮しつつ、経済的リターンも追求する持続可能な投資手法

 

 

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