時評

再生可能エネルギーへの移行が進んだ国ほど エネルギー危機の影響が小さく、エネルギー安全保障が強固

秋田港沖に並ぶ洋上風力発電の風車=秋田市

 アメリカ・イスラエルのイランへの軍事攻撃を契機として、世界の石油・LNGの約20%が通過するホルムズ海峡が機能不全に陥り、化石燃料依存の地政学的リスクが露呈しました。一方で再生可能エネルギー(以下再エネ)への投資の有無で各国の影響度に大きな差が生じ、再エネへの移行が進んだ国ほどその影響が小さくなっています。

 再エネを中心とした「クリーンエネルギーシステム」は、運転中に大気汚染や温室効果ガスを排出しない電力、冷暖房、輸送エネルギーの生産、供給、使用を指し、風力や太陽光などの再エネや、水力、地熱などのクリーンなエネルギー源を含みます。これらのシステムは、バッテリーのような長期エネルギー貯蔵技術や、電気自動車やヒートポンプなどの最終用途と組み合わせることができます。

 クリーンエネルギーシステムがエネルギー危機に対応できるのは、環境面でのメリットが大きいのみでなく、経済面と安全保障上の優位性があるからです。

 ほとんどどの国でも太陽は輝き、風は吹いています。また、再エネは低コストで、風力、太陽光、地熱などの再生可能資源は燃料コストがゼロです。これに対し、石油・ガスの生産は、特定少数の国に集中し、地政学的な混乱と、コスト変動の激しい世界市場にさらされています。

 これらの利点が、イラン戦争によるエネルギー危機の中で、世界の再エネ移行先行国が他国よりも強い耐性を示している理由です。なかでも中国・パキスタン・スペインはいずれも再エネ投資が危機耐性を高めており、日本にとっても示唆を与えています。

 中国では電気自動車(EV)と再エネへの投資が成果を上げています。中国は過去20年間で数千億ドルを投じ、EV製造と再エネ発電の強力な国内産業を創出しました。中国の主要なEVメーカーであるBYDは近年急速に台頭し、現在は世界でテスラよりも多くのEVを販売しています。2025年に中国で販売された新車の半数はEVとなっており、その大半が完全電気自動車で、新型大型トラックの3分の1がEVでした。

 同様に、中国は再エネの発電や機器製造にも多大な投資を行い、今や世界最大の太陽光パネルおよび風力タービンの生産・輸出国です。太陽光、風力、水力発電による電力は、中国の総発電量で、2000年の16%から2025年上半期には約40%まで増加しています[1]

 中国ではEVの急速な普及により、精製石油需要のピークアウトが早まりました。EVと非化石燃料由来の電力との組み合わせにより、中国は石油や天然ガスの輸入需要の伸びを抑制し、外部からの供給途絶によるリスクを軽減しています。

 中国の状況から、産業政策とエネルギー安全保障を一体で考えることが、危機時の強さにつながることが分かります。

 パキスタンでは分散型太陽光発電の急拡大が、家庭や中小企業を燃料不足から守っています。分散型太陽光発電は、これまでパキスタンの電力部門を天然ガス供給の混乱による影響から守ってきました。過去10年間で国内の系統連系型および独立型の太陽光発電設備が大幅に増加したため、特に日中は、発電のための天然ガス使用量が劇的に減少しています。

 パキスタンの太陽光発電ブームは、イラン戦争が始まる前からすでに、120億ドル相当の石油・ガス輸入を回避していたことが示されています。この太陽光発電の爆発的な普及は、10年前に始まった「パーフェクトストーム」[2]とよばれる現象によって引き起こされました。需要面では、料金値上げにより、多くの家庭や中小企業にとって系統連系型電力の利用が経済的に困難になり、供給面では、低コストの中国製太陽光発電システムがパキスタン市場に大量に流入し始めました。

 その結果、家庭や企業にとって分散型のプラグイン太陽光発電システムを購入・設置することが非常に経済的になったのです。その影響は極めて大きく、2019年から2025年の間に、パキスタンが輸入した太陽光パネルの発電容量は、同国の既存の発電所設備容量を上回りました。これは電力系統への需要が低下したことで、パキスタンの電力会社に課題をもたらしましたが、今回の危機において同国と消費者を守ることとなりました。

 パキスタンの経験は、低所得国であっても、分散型再エネがエネルギー危機の「防波堤」になり、危機耐性を高める最速の手段となり得ることを示しています。

 イラン情勢の悪化以来、一部の欧州諸国は電力料金の著しい値上げに直面していますが、スペインとフランスではその上昇幅がはるかに小さくとどまっています。これは、両国とも電力のかなりの割合を天然ガス以外の電源で賄っているためです。

 スペインでは、再エネ(太陽光、風力、水力)が国内の電力供給量の57%を占めており、原子力が20%、天然ガスが19%となっています。このようなスペインの再エネ比率の高さが価格安定に直結しているのです。スペインは風力・太陽光の比率が高く、欧州の中でもガス依存度が低い国の一つです。イラン戦争開始後も、電力価格の変動は他国より小さく、供給不安も限定的です。再エネの国内供給力が、外部ショックを吸収する「価格安定装置」として機能しています。

 もちろん、これらの国々におけるクリーンエネルギーへの投資が、エネルギー危機の影響を完全に防いでいるわけではありません。これまで紹介した事例は、工場、家庭、交通分野で使用される電力に焦点を当てたものです。暖房などに必要なエネルギーなどの他の形態のエネルギーは依然として大きな影響を受けています。

 例えば中国では、多くの家庭や工業プロセスで天然ガスが暖房用として利用されています。中国をはじめとする国々は、衣類、ゴム、肥料などの製品の原料として、依然として輸入石油化学製品に依存しています。こうした用途のすべてが、現在のエネルギー危機において影響を受けています。また、スペインやフランスでは電力システムが価格ショックから守っているものの、産業や交通分野においては、輸入化石燃料への依存が続いているため、これらのセクターでは依然として影響を受けやすい状態です。とはいえ、電力のクリーンエネルギー源への転換や交通分野の電化は、エネルギー自立に向けた画期的な一歩です。

ホルムズ海峡を通らずに原油を運んできたタンカー=朝日新聞社提供

 今回の危機は、日本にとってとりわけ深刻な影響があります。日本は一次エネルギーの約9割を輸入に依存し、ホルムズ海峡の影響を最も受けやすい国の一つです。いまや再エネは「コスト」ではなく、国の安全保障そのものなのです。安全保障の強化のためには以下の取り組みが必要です。

 ・再エネの国内供給力の強化:太陽光・風力の導入拡大と蓄電池の国内生産で、外部ショックを吸収できる体制の構築。

 ・分散型エネルギーの普及:住宅・中小企業の屋根上での太陽光発電、地域マイクログリッドの普及で、災害・戦争時のレジリアンス(回復力・耐久力)を向上。

 ・産業政策としての再エネ:EV・蓄電池・水素などの開発による、成長産業化とエネルギー安全保障を国の政策として一体で推進。

 イラン戦争は、化石燃料依存による脆弱性と、再エネ投資の安全保障上の価値を世界に示しました。中国・パキスタン・スペインの例は、再エネの拡大が危機耐性を高めることを実証しています。日本にとっても、再エネは「環境のため」だけでなく、国の生存戦略として位置づけるべき段階に来ています。

 (松下和夫 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)

[1] 2025年7月31日、中国国家エネルギー局が発表した、「2025年上半期エネルギー発展報告書」によると、再生可能エネルギーによる発電量は約1兆8000億kW時と中国の総発電量の約40%を占めるに至った。

https://crds.jst.go.jp/dw/20250829/2025082942814/

[2] パキスタンで「再生可能エネルギーのパーフェクトストーム」と呼ばれる現象とは、 “複数の危機(燃料高騰・電力不足・政策の歪み)が同時に重なり、太陽光発電が爆発的に普及した結果、エネルギー危機の緩和と新たな環境危機が同時に起きた” という複合的な現象を指す。

 

PAGE TOP