宮古島にしのびよる農薬汚染

「宮古ブルー」と称される沖縄県・宮古島の海=写真はいずれも2023年8月、筆者撮影
「宮古ブルー」と称される透明で美しく青い海。熱帯魚やアオウミガメがゆったりと泳ぐサンゴ礁の海辺。こうした素晴らしいリゾート地としてのイメージの宮古島で、農薬による汚染の広がりが懸念されています。
宮古島は人口約5万5千人。サトウキビを中心とした農業と観光が経済の二本柱です。伝統的な文化と観光開発が共存していますが、近年では観光客の増加により、インフラや生活環境に変化が生じ、持続可能な地域づくりが重要なテーマとなっています。
観光客の急増が島の環境・インフラ・住民生活に深刻な負荷を与え、オーバーツーリズムによる弊害が顕在化しています。2024年度の観光客数は約119万人で、人口の約22倍に達し、生活インフラに大きな負荷を与えています。ホテルの建設ラッシュにより観光客を受け入れる能力が増えたものの、環境への負荷も増大しています。特にごみ処理能力の限界、自然環境の劣化、交通混雑、上下水道などの生活インフラ不足が大きな課題となっています。観光は島の経済を支える一方で、将来につながる持続可能性を確保するためには、観光の質の向上や環境の保全とインフラの整備が不可欠です。
一方で、元農林水産大臣で弁護士の山田正彦さんらによると、宮古島のネオニコチノイド系農薬による汚染が心配されています。
宮古島は昔から水不足に悩まされてきました。島はサンゴ礁由来の石灰岩から構成され、その土壌は保水力に乏しく、島に降り注いだ雨は石灰岩層をほぼ素通りしてその下の粘土層まで達し地下水となります。川のない宮古島にとって、この地下水が唯一の水源となってきましたが、島民の暮らしを支えるのに十分な量とは必ずしも言えなかったのです。地下水の流出を少しでも防ごうと、島は1980年代から世界でも珍しい大型の地下ダムを次々と建設しました。
ですが、このように島民の生活にとって極めて貴重な地下水が、実は農薬によって汚染されていることが明らかになってきたのです。
この背景には特にサトウキビ農業での農薬の使用量増加があり、複数の調査[1]で水道水や市民の尿からも農薬成分が検出されています。サンゴ由来の石灰岩地質は水をろ過しにくく、農薬が地下水に浸透しやすい環境です。そして地下ダムの止水壁により水の循環が滞り、農薬が蓄積しやすい構造になっていると指摘されています。
宮古島はサトウキビ、葉タバコ、野菜(マンゴー、トマトなど)の農業が盛んで、害虫対策として農薬が広く使用されてきました。とりわけネオニコチノイド系農薬は浸透移行性が高く、長期間効果が持続するため重宝されてきたのです。
ところが地元の市民団体や研究者による調査で、地下水や河川水からネオニコチノイド系農薬が検出された事例があり、特に、農繁期(春〜夏)に高濃度の検出が報告されています。

海中を泳ぐアオウミガメ
ネオニコチノイドは昆虫の神経系に作用する農薬であり、ミツバチの大量死や個体数減少の主因の一つとされています[2]。宮古島ではミツバチに加え、チョウやトンボ、カエルなどの減少も指摘されています。
さらに地下水を生活用水として利用する住民が多く、飲料水を通じての慢性的な曝露が問題視されています。宮古島市では発達障害の子どもが増えているという調査結果があります。一般的に、ネオニコチノイド系農薬の暴露は人間の発達神経や生殖機能に影響する可能性が指摘されており、その使用について早急な対策を求める研究者もいます。
現状では、宮古島市は農薬の適正使用を呼びかけていますが、規制や使用制限は明確ではありません。一部の学校や地域で農薬不使用・有機農業の推進も見られますが、そのような取り組みはまだまだ限られています。
根本的な課題として、国レベルでのネオニコチノイド系農薬の使用制限(EUでは多くが禁止)がないため、地域単独での対応に限界があります。
宮古島におけるネオニコチノイド系農薬の使用が農業の効率化に貢献してきたことは確かですが、地下水・生態系・住民の健康へのリスクが顕在化しつつあります。地質的に脆弱な島嶼地域である宮古島では、農薬使用の在り方そのものを見直す必要性が高まっており、行政・農家・住民・研究者の協働による対応が求められています。
(松下和夫 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)
[1] 宮古島市の水道水中ネオニコチノイド系農薬濃度年間モニタリング調査 宮古島地下水研究会 友利直樹、平良雅則、前里和洋、根間俊明、新城竜一、渡久山章 2023年9月
https://miyakojima-tikasui.com/report_research/2023_09.pdf
令和5年度農薬類精密水質検査結果の公表について 公開:2024年3月22日、宮古島市水道部
https://miyakojimajyouge.jp/post-950
[2] ローワン・ジェイコブセン、『ハチはなぜ大量死したのか』、文芸春秋社、2009年

