熱帯林の破壊が止まらない
今年の夏の暑さと長さは格別だった。本稿執筆時の9月後半でも日本各地で35度を超える猛暑が報告されている。困ったことにこれから毎年もっと暑くてもっと長い夏に直面することになる。マスコミ報道では熱中症などを防ぐために適度の冷房や水分補給をすることなどが強調されている。ところが気温上昇の根本原因への対策はあまり言及されない。
気候変動の原因は人間の活動によって二酸化炭素などの温室効果ガスの排出が増えていることだから、対策は世界全体で大幅かつ急速にそれらの排出を減らすことと、吸収を増やすことだ。つまり化石燃料への依存から脱却する脱炭素経済への移行と、温室効果ガスを吸収する森林などの保全と適正な管理が必要だ。
もちろん国際社会も手をこまねいていたわけではない。毎年大掛かりな国際会議(気候変動枠組条約締約国会議(COP))を開催して対応策を協議している。今年はその30回目(COP30)で、11月にブラジルのベレンで開催される。ベレンはアマゾン河口に位置するアマゾンの中核都市だ。アマゾン川流域には世界最大面積を誇る熱帯雨林が大きく広がっている。COP30では当然熱帯林の保全も重要なテーマとなる。そこで本稿では世界の熱帯林を中心とした森林の最近の動向を見てみる。
2024年には、火災による森林損失が過去最大になった
データを確認して改めて驚いたのは、世界の森林破壊のペースはとどまるどころかむしろ加速していることだ。
世界資源研究所(WRI)は「グローバル・フォレスト・ウォッチ」プラットフォームで新たなデータを公開している。これによると、2024年に世界が失った森林面積は過去最大を記録し、その主な要因は大規模な火災であった。
熱帯原生林は、昨年は1分間にサッカー場18個分のペースで消失したことが示されている。これは2023年の約2倍の速度だ。熱帯地域で火災による森林損失が農業による損失を上回ったのは20年ぶりのことだった。その損失により2024年だけで3.1ギガトンの温室効果ガス(GHG)が排出された。
2024年の熱帯原生林の火災被害面積は2023年の5倍に達した。一部の生態系では自然発生する火災もあるが、熱帯林ではほぼ全てが人為的要因によるもので、農業用地開拓のための焼畑が原因で発生し、近隣の森林へ制御不能に拡大することが多い。2024年は観測史上最も高温の年となり、気候変動とエルニーニョ現象による高温乾燥状態が、より大規模かつ広範囲な火災を招いた。ラテンアメリカは特に深刻な被害を受け、ブラジルとボリビアで農業による原生林減少を、火災による減少が逆転した。
もっとも、火災とは無関係な原生林の損失も、2023年から2024年にかけて14%増加した。これは主に森林の農業用地への転換が原因である。過去24年間、恒久的な農業のための森林伐採が熱帯原生林損失の最大の要因であったが、2024年には山火事がより大きな要因となり、損失のほぼ半分を占めた。
森林減少は熱帯地域に留まらず、カナダやロシアなどの北方林地域でも大規模な火災が発生し、世界の森林被覆の損失も過去最高を記録した。
ただし、2024年には明るい兆しも見られた。インドネシアとマレーシアでは、2023年よりも原生林の減少が少なく、その減少率も10年前と比べて大幅に低下した。
しかし全体的な減少傾向は加速している。2021年のCOP26では140カ国以上が「グラスゴー森林宣言」に署名し、2030年までに森林減少と土地劣化を停止・逆転させることを約束した。しかし2024年のデータは、劇的な方向転換がなければ、この宣言の目標を今世紀末までに達成することは困難であることを明らかにしている。
ブラジルは世界最大の森林減少国
2024年にはブラジルは過去70年間で最も深刻かつ広範囲にわたる干ばつに見舞われ、高温と相まって火災が国内で前例のない規模で拡大した。また、火災以外では、大豆栽培や畜産のための森林伐採が原生林減少の主な原因となった。
ブラジルは世界で最も多くの熱帯原生林を有しているが、熱帯地域全体の原生雨林減少量の42%を占め、依然として森林減少が最も多い国となっている。火災以外の森林減少率も2024年は2023年比13%増加したが、2000年代初頭やボルソナーロ大統領在任時のピーク値には達していない。
2024年の出来事は人類に警鐘を鳴らしている
2024年の森林減少は人類に警鐘を鳴らしている。2030年までに森林減少を停止・逆転させるには、年間森林減少量を2024年水準から毎年20%削減する必要がある。
この傾向を正しい方向へ転換するには、①持続的な政治的リーダーシップ、②強力な火災予防、③森林保護・回復への資金拡充、④森林減少削減と生物多様性枠組み目標の整合化、⑤そして最終的には、地域に即した解決策、森林国とそれらから商品を輸入する国双方のより強い政治的意思、そして増大する気候変動リスクへの適応が必要となる。こうした多様な解決策がとられなければ、森林と森林が私たちに提供してくれる数多くの恩恵は消え続けていくことになる。
松下和夫(京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)